1 絵本の世界
昔話風の絵柄で、家の前におじいちゃんとカッパがいる。
マリウス(N)「昔々あるところに、おじいちゃんとカッパちゃんが住んでいました」
✕ ✕ ✕
(昔話風ではない)村長宅のコートの部屋を挿入。
机に向かっているコート。コートは帳簿をつけていた手を止めて振り向く。(祖父から話しかけられて振り向いた場面)
コート(12)「カッパちゃん?」
振り向いたコートの視線の先には、おじいちゃんとカッパがいる。
✕ ✕ ✕
昔話風の絵に戻る。以降ずっと昔話風の絵柄で進行。川へ洗濯に来ているカッパ。
マリウス(N)「ある日、カッパちゃんは川へ洗濯に」
次の絵に移る。空間の歪み(空間が揺らめいて見える場所)の前に立つおじいちゃん。
マリウス(N)「おじいちゃんは森の奥に空間の歪み(ひずみ)を消しに行きました」
次の絵に移る。川に流されるカッパ。
マリウス(N)「カッパちゃんは足をすべらせ、世界の果てまで流され」
次の絵に移る。フレア・シェルの図解「こっちをかざす」と手描きで書かれたメモを見ているおじいちゃん。次に空間の歪みに向かってフレア・シェルをかざすおじいちゃん。
マリウス(N)「おじいちゃんは間違えて、秘石フレア・シェルを逆にかざし」
次の絵に移る。空間の裂け目に飲まれるおじいちゃん。
マリウス(N)「空間の歪みは裂け目となって、おじいちゃんを飲み込んでしまいました」
次の絵に移る。空間の裂け目が閉じて、もとの歪みになる。
マリウス(N)「おじいちゃんはそのまま、ピンクのカバが住む異世界、マリーナルへと行ってしまったのでした」
ピンクのカバが闊歩する世界にぽつんと降り立ったおじいちゃん。
✕ ✕ ✕
絵本の世界からリアルなマリーナルの世界にクロスフェード。
マリウス(N)「おしまい」
2 村長宅 姉の部屋の前の廊下
階段をどたどたと上ってくるコート。部屋の前に駆け込んできて扉をノックする。
コート「弟です! 入ります! やばいものは2秒で隠してください!」
コート、2秒待って勢いよくドアを開ける。
コート「おじいちゃん帰ってこないんだけど、どこ行ったか聞いてる?」
ベッドの中でふとんをかぶった姉(村長)、片手だけ出して「知らない」のジェスチャー。
コート「知らない、と」
ドアをバタンと閉めるコート。
コート「(駆け去りながら)わかった! もうちょっと探してみる!」
ふとんをかぶって残された姉。
マリウス(N)「これが次期村長。後にこの物語の主役になる人物。だけど、今回の物語ではまだ出番がない」
✕ ✕ ✕
カメラはトラックバックしつつ家の外に出る。家の俯瞰から、森へと移り、そこに揺らめいている『空間の歪み』へと寄っていく。更に寄るとその先にはマリーナルの風景が見えている。
マリウス(N)「物語は『マリーナル』と呼ばれる異世界で幕を開けます」
カメラは歪みの中へ入り、マリーナルの景色が眼前に迫ってくる。空間が重力で曲がったような特殊な効果で表現する。
3 マリーナル(異界)のエレインの家の前
森に囲まれた小さな家があり、その後ろにはピンクのカバが闊歩している。
少女(アリスロッテ)が立っている。その手元にはフレア・シェルが輝き、アリスロッテはそれをを眺めている。
背後からエレインの声。
エレイン(35)(オフ)「また持ち出してる!」
アリスロッテ、はっとして振り返り、エレインの姿を見留める。
エレイン「大事なものなのよ、返しなさい」
アリスロッテ(13)「うん……。(返そうとするが、引っ込めて)ねえ、お母さん! 私にも使い方教えて!」
エレイン「ダメ。返しなさい」
エレイン、アリスロッテの手からシェルを取ろうとするが、アリスロッテはかわす。
アリスロッテ「ねえ! 今度の歪みは私に消させて? お願い!」
エレイン「ダメよ、使い方を間違えるとたいへんなことになるんだから」
アリスロッテ「たいへんなことって? 」
エレイン「何度も言ってるでしょう? まちがった使い方をすると空間が裂けて……」
二人の背後の森、アリスロッテから見える方向、エレインの背後の遠くで鳥の群れが飛び立つ。
エレイン「そこから光が降り注いで……」
アリスロッテ視点でエレイン舐めて背後の森で光が輝く。獣たちが騒ぎだす声。飛び立つ鳥。アリスロッテ、異変に気がつく。
エレイン「異界の化物が現れるの」
地響きが伝わってくる。エレイン、異変に気が付き、アリスロッテが見ている森の方を振り返る。
アリスロッテ「(怯えながら)何が起きてるの……?」
森の方から獣の咆哮が轟く。
エレイン「これは……」
4 マリーナル(異界)の森
森の入口。
決意して立つ、エレインとアリスロッテ。
エレイン「行こう」
アリスロッテ「うん!」
M:テーマ曲
ピンクのカバが見え隠れする森の中で、アリスロッテとエレインが探索するオープニング。以下を止め絵で見せる。
・森を進むエレインとアリスロッテ
・ふたりの背後、沼から顔をだす怪物
・怪物に追われるふたり
・物陰から怪物を待ち伏せるふたり
・魔法で怪物の目をくらませるアリスロッテ、火球を打ち込むエレイン
・怪物を仕留め、ご満悦のふたり
・奥に何か見つけたアリスロッテ。エレインはアリスロッテに呼ばれて振り返っている。
すべてのカットにピンクのカバが見えているが、エレインとアリスロッテは気がついていない 。
T:タイトル「ピンクのカバが棲むところ」
5 マリーナル(異界)の森 おじいちゃん遭遇現場
森の中におじいちゃんが倒れてる。怪我をして服は焦げて破れてる。
T:「第一話 古家のもり」
アリスロッテが走り込んでくる。
アリスロッテ「何か倒れてる!」
おじいちゃんから距離をとって立つアリスロッテ。そこにやって来るエレイン。
アリスロッテ「痛そう。怪我してる……」
エレイン「そうね……って言うか、なんなのこの生き物……」
おじいちゃん、うめく。
おじいちゃん「む、むぎゅう……」
おじいちゃんが持っているフレア・シェルが光を反射し、エレインそれを見留める。
エレイン「あの石は……」
6 マリーナル(異界)のエレインの家の前
家の前の粗末な木の檻に入れられ、全裸で倒れてるおじいちゃん。アリスロッテ、檻の前にしゃがんで心配そうに見てる。
玄関の扉があいてエレインが出てくる。
エレイン「(靴紐を結び直しながら)その獣、噛みつくかも知れないから気をつけてね」
アリスロッテ「あ、うん、気をつける。どこか行くの?」
エレイン「寄り合い。一応報告しておこうと思って」
アリスロッテ「(パッと明るくなって)じゃあケーキ買ってきて! 誕生日の!」
エレイン「あっ、そうだったね、13歳おめでとう(何かに気がつき)、……ああ、でも、お菓子屋さん、村を出てったって」
アリスロッテ「(沈んで)そう……じゃあケーキはなしか……」
エレイン「でも、せっかく村まで降りるんだ。なんか買ってくるよ」
エレインが去っていく姿をしゃがんだまま見送るアリスロッテ。
おじいちゃん、檻にとびつき、ガタガタと揺らす。
アリスロッテ、その物音に気がついて檻を見る。
アリスロッテ「気がついたのね、待ってて!」
アリスロッテ、部屋へ駆け戻る。
時間経過後、アリスロッテ、犬の餌皿みたいなものに料理を盛って出てくる。
檻の下の隙間から、餌を差し出す。
おじいちゃんは警戒する。
アリスロッテ「だいじょうぶよ。私が作ったの。おいしいから食べて」
おじいちゃん、警戒しながら、餌の臭いを嗅ぐ。
アリスロッテ「ねえ、あなたソルサリアから来たんでしょう?」
おじいちゃん、こくこくと頷く。
アリスロッテ「あはっ、頷いた。わかってんのかなあ、私の言葉」
おじいちゃん、餌の臭いに恍惚となり、両頬に手を当て立ちあがる。その姿は全裸。アリスロッテの視線はおじいちゃんの股間へ。
アリスロッテ「すごいなあ。仕草も体の作りも人間といっしょだ……」
おじいちゃん、餌の前に座って、手近な棒を拾って、箸がわりに持ち、両手を合わせる。
アリスロッテ「あはっ、いちいち人間っぽい。獣のくせに」
おじいちゃん「いただきます」
アリスロッテ、表情が消える。
アリスロッテ「いただきます……」
おじいちゃんは餌を掻き込み、アリスロッテは呆然と見ている。
おじいちゃん「うまーいっ!」
アリスロッテ「(立ち上がり)ちょっと待って! あなた人間? 人間なの?」
おじいちゃん「この料理を作ったシェフを呼んでくれ! 礼を言いたい!」
アリスロッテ「(真っ赤になって)キャーッ!」
アリスロッテ、部屋に駆け戻る。
アリスロッテ(オフ)「なんか履くもの! 履くもの……! ないっ!」
時間経過後、浮き輪と団扇とその他日用品を持って部屋から出てくるアリスロッテ。檻の扉は開いている。中におじいちゃんがいないことを見留めるアリスロッテ。
アリスロッテ「いないっ!」
7 マリーナル(異界)の村の寄り合い所 外観
寄り合い所の外観。村の人たちが話し合ってる声が聞こえる。
村の人A(オフ)「あんたの代になってからだ。消しても消してもすぐにアレが現れるようになったのは」
村の人B(オフ)「谷の方にも、あんたの一族はいるそうじゃないか。その人のほうがうまくやれるんじゃないのか?」
8 世界の果ての洞窟
世界の果ての洞窟。奥には祭壇があり、その前で護摩を焚いているカッパ。
マリウス(N)「その頃、カッパは世界の果てで、村人がカッパに見える呪いをかけていました」
カッパ、振り返って目が光る。カッパははちまきを締めていて、はちまきには2本の火がついた蝋燭が挟んである。
9 マリーナル(異界)の村の寄り合い所 中
車座になって、村の人たち(カッパ)4人とエレインが話し合っている 。
村の人B(カッパ)「あんたがダメってことは、娘の代になったら、どうなるんだこの村は」
村の人C(カッパ)「あの娘。この前も勝手に泉に入ったそうじゃないか。あんたからも注意してもらわんと困るよ」
村の人A(カッパ)「お菓子屋さんも引っ越してしまったんだぞ」
エレイン(M)「カッパに見える……」
その後もカッパは口々に何か喋る。エレインは肩を落としたまま。ゆっくりとフェードアウト。
10 マリーナル(異界)の村の寄り合い所 外観
寄り合い所を出るエレイン。
11 マリーナル(異界)の山道
山道をとぼとぼと登るエレイン。手にはスイカをぶら下げている。
アリスロッテの声が聞こえる。
アリスロッテ(オフ)「お母さーん!」
エレイン、声に気が付き、手でひさしを作って仰ぎ見る。
アリスロッテと浮き輪を身につけたおじいちゃんが走ってくる。
アリスロッテ「人間! 人間だったの、これ!」
アリスロッテ、両手でおじいちゃんを指す。
おじいちゃん、ポーズを決める。
エレイン「ええっと、一箇所突っ込んでもいい?」
アリスロッテ「浮き輪でーす」
エレイン、呆れたように微笑む。
12 同、開けたところ
木陰に粗末なベンチがある。座ってスイカを食べてるエレインとアリスロッテとおじいちゃん。
アリスロッテ「まさか人間だなんて思ってもみなかったけど、あっ、ごめんなさい! いい意味で、人間離れしてるってこと!」
おじいちゃんは無心にスイカを食べていて無反応。アリスロッテはエレインの顔をのぞきこむ。
アリスロッテ「(目を輝かせ)異界から来たんだよね、このおじいちゃん」
エレインはスイカを手にとったままぼーっとしている。アリスロッテ、エレインに無視されてむっとした表情になる。
エレイン「(アリスロッテの言葉が途切れたことに気が付き)えっ? なあに? 聞いてなかった」
アリスロッテ「ハア(ため息)。また何か言われたの?」
エレイン「えっ、何かって、寄り合いで? んーん、なんでもないの。(気を取り直し)て言うか、あんたは余計なこと心配しないの」
アリスロッテ「だって。どうせ私のことでしょ?」
エレイン「そんなことないって! で? なに? 異界から? なんだっけ?」
アリスロッテ「あのね、このおじいちゃんも向こうの世界で、歪みを消す仕事をやってるんだって。それで、(おじいちゃんの方を向いて)コツがあるんだよね?」
おじいちゃん「そうそう、石にもあるの、心。それに気持ちを合わせるの」
エレイン「心? 心ねぇ(軽い嘲り)」
13 マリーナル(異界)のエレインの家の前(夕方)
夕空を雨雲が覆い始める。
雨粒が地面に落ちてくる。鳥たちの鳴き声。遠くに雷鳴。突然激しく雨が降り始める。
エレインとアリスロッテとおじいちゃんが走ってくる。三人はエレインの家に駆け込む。が、おじいちゃんは玄関に辿り着く前に転んで、家に入れない。
14 マリーナル(異界)のエレインの家(夕方)
アリスロッテは濡れた衣服の雫を払っている。
アリスロッテ「ねえ、お母さん、私たちもおじいちゃんの世界に行かない?」
エレイン「なにバカなこと言ってるの。住む場所ってのは、選べないの。場所が私たちを選ぶの」
アリスロッテ「何よそれ、わけわかんない。ねえ、おじいちゃん、行ってもいいでしょう?」
言うと同時に後ろを振り向くが、人の姿はない。
アリスロッテ「あれ?」
アリスロッテの頭に雨漏りの水滴が落ちてくる。
アリスロッテは天井を見上げる。
天井は濡れて雨水がつたい、その雫が落ちる。
アリスロッテ「雨漏り……」
エレイン「それに私、この家好きだよ。住めば都って言うじゃない」
エレイン、バケツを2つほど床に置く。
水滴が落ちて、バケツの底を叩く。
アリスロッテ「私はこんな家……」
エレイン、別のバケツを1つアリスロッテに渡す。
水滴が床に置かれたバケツを順に叩く。
アリスロッテ、バケツを差し出すと、そこに水滴が落ちる。
続けてエレインも同様に差し出し、そこに水滴が落ちる。
エレイン「確かにおんぼろだけどさ、村あってこその私達だよ」
同様にもう一巡、バケツ1,バケツ2,アリスロッテが差し出したバケツ、エレインが差し出したバケツ、と水滴が落ちる。
それに合わせてアリスロッテとエレイン視線を動かし、そのあとにバケツのないところに水滴が落ちるのを目で追う。
アリスロッテ「あっ」
エレイン「今日は一段とひどいね、(アリスロッテにコップを差し出し)ほら」
アリスロッテ「うん、(コップを受け取り)あっ、お母さん、あっちも」
エレイン「ん(了解)」
アリスロッテとエレインは落ちてくる水滴に対して身構える。
床のバケツ1、同バケツ2、アリスロッテのバケツ、エレインのバケツ、アリスロッテのコップ、と来て最後にエレインの持ってる仏壇の鐘にチーンと水滴が落ちる。これを二人で順に目で追って、最後のチーンの後、アリスロッテはエレインの顔を見る(なにそれ、って感じで)。
同じ順番でもう一巡、アリスロッテはエレインの顔を見たままエレインだけ順番にしずくの落下を追う。最後に仏壇の鐘にチーン。
アリスロッテ「(突然キレて立ち上がり)だからこーゆードリフのコントみたいなのやりたくないの! 私、一生ここでお母さんとこんなコントやって暮らすの?」
エレイン「(たじたじになりつつ)ああ、ごめんごめん、それよりおじいちゃんは?」
アリスロッテ「忘れてた!」
玄関の扉がガラッと開いて、おじいちゃんがチャーリー浜のメガネをかけて立ってる。振り返るアリスロッテとエレイン。
おじいちゃん「ごめんくさい!」
アリスロッテ「だから昭和のギャグはやめて!」
15 村長宅 姉の部屋の前の廊下(朝)
階段をあがってくる足音。
コート、部屋の前に駆け込んできて扉をノックする。
コート「弟です! 入ります! やばいものは2秒で隠してください!」
コート、 待たずにドアを開ける。
布団ががばっと舞い上がり、姉の姿を覆う。
コート「昨日からおじいちゃん帰ってこないんだけど! 丸一日たってるんですけど!」
ベッドの上で布団をかぶった姉。姉は片手だけ出して「知らない」のジェスチャー。
コート「(ドアをバタンと閉めて、駆け去りながら)わかった! もうちょっと探してみる!」
布団をかぶって残された姉。
16 マリーナル(異界)の聖なる泉
荘厳な雰囲気のある森の中の泉。
アリスロッテ、泉に向かって目を閉じて手のひらを広げ、周囲の霊的エネルギーを感じ取っている。傍らにはじいちゃんが座ってる。
アリスロッテ「(目を閉じたまま)エロールの声が聞こえるの」
おじいちゃんは足を池にちゃぷちゃぷしていてる。
アリスロッテ「(目を閉じたまま)エロールってわかる? この世界を作った、神様みたいな存在。この話、マリーナルだけかな?」
じいちゃん「エロール、聞いたことあるよー」
アリスロッテ「(目を閉じたまま)ああ、じゃあいっしょだ。そのエロールの声がね……聞こえるっていうか、見えるっていうか……」
ジャバウォックの咆哮が遠くから轟く。おじいちゃんはその声に気が付き、声の主の姿を探す。
じいちゃん「むにゃ?」
アリスロッテ「(目を開けて、おじいちゃんを見て)あの声はジャバウォック。いつも来るのよ」
アリスロッテ、ジャバウォックの声がしたほうを見る。
アリスロッテ「みんな怖がるけど、悪い子じゃないよ」
アリスロッテとおじいちゃん、森を眺める。
木々の向こうにジャバウォックの姿が見えて、悠々と歩いていく。
アリスロッテ「もう行こっか。村の人にみつかったら怒られちゃう」
17 マリーナル(異界)のエレインの家の外
屋外のテーブルに座ってお茶を飲んでるアリスロッテ(マグカップ)とおじいちゃん(犬皿)。
エレインが来て、アリスロッテの隣りに座る。
エレイン「泉には行くなって言ってるでしょ?」
アリスロッテ「(うつむいて)だって……」
エレイン「だって、何?」
アリスロッテ「なんでもない」
エレイン「ねえ、聞いて、アリスロッテ。村のルールにはしたがって。あなたは嫌かも知れないけど、ここが私たちの村。故郷。私たちが求めるものがあるし、私たちが求められる、ただひとつの場所なの」
アリスロッテ「求められるって?」
エレイン、呆れと戸惑いが混じった表情。
エレイン「それは……」
✕ ✕ ✕
昼間の屋外、戯画風の背景に変わる。
テーブルに足を組んで座り、陶器のジョッキでビールを飲むエレイン。隣でマグカップで何か飲んでるアリスロッテ。
カッパの姿をした村人がスライドして入ってくる。
村人「空間が歪んでる! 治してくれ!」
エレイン(オフ)「とか……」
村人のセリフは画面上のキャラクターのセリフで、エレインとアリスロッテのセリフはそれを回想しながら画面外の二人がコメントしている。以降も同じく。
村人、スライドして退場。
別の村人、スライドして入場。
村人「空間の裂け目からモンスターが現れた! 倒してくれ!」
エレイン(オフ)「とか……」
村人、スライドして退場。
アリスロッテ(オフ)「あと……」
別の村人、スライドして入場。
村人「シャツのボタンがとれた! つけてくれ!」
エレイン(オフ)「これなー」
アリスロッテ(オフ)「自分でつけろっての」
村人 、スライドして退場。
別の村人とその子ども、スライドして入場。
村人「この子のお母さんになってくれ!」
エレイン(オフ)「いやいやいや」
アリスロッテ(オフ)「私、あの子嫌いなんだけど」
村人とその子ども、スライドして退場。
別の村人、スライドして入場。
村人「お菓子屋さんも引っ越してしまったんだぞ」
エレイン(オフ)「ってそれ、私関係なくない?」
アリスロッテ(オフ)「こっちだって迷惑してんだからね」
村人、スライドして退場しかかるが戻ってくる。
村人「パン屋が引っ越してもお菓子屋さんがいればいいじゃないって、言ってたくせにっ!」
エレイン(オフ)「いや言ったけどさあ」
アリスロッテ(オフ)「あ、言ったんだ。っていうか、引っ込めよ」
エレイン(オフ)「戻ってきたよね?」
村人、スライドして退場。
別の村人、スライドして入場。
村人「お宅の娘をうちの嫁に欲しいんだが!」
エレイン(オフ)「これ、さっきの親子と同じ人」
アリスロッテ(オフ)「ていうか、ぜんぶカッパに見えるんですけど」
村人、スライドして退場。
別の村人、スライドして入場。
村人「バーカ!」
エレイン(オフ)「おまえがバカだろ!」
アリスロッテ(オフ)「なんかすごい腹立ってきた」
村人、スライドして退場。
別の村人、スライドして入場。
村人「ヤギ2頭生まれたんだけど、いらない?」
エレイン(オフ)「いらねーっ」
アリスロッテ(オフ)「(かぶせて)いらねーっ。っつーか、いつまで続くのこれ?」
✕ ✕ ✕
戻って。
エレイン「でもまあ、いい思い出になるわ、きっと」
アリスロッテ「ならない」
犬皿に顔をうずめるようにして牛乳を飲んでるおじいちゃん。
18 同、家の中(夜)
薬草をすりつぶした乳鉢。
アリスロッテはおじいちゃんの背中に軟膏を塗った湿布を貼る。玄関から村人とエレインの声が聞こえる。
村人(オフ)「そんなわけで、頼むよ」
エレイン(オフ)「わかりました、すぐ行きます。場所は?」
アリスロッテ、小声でおじいちゃんに尋ねる。
アリスロッテ「こんどお母さんに内緒で、石の使い方教えて」
おじいちゃん「石?」
アリスロッテ「ええっと、フレア・シェルって言うんだっけ? 空間の裂け目を広げたり消したりする石」
おじいちゃん「いいよー。怪我が治ってからねー」
アリスロッテ「そうだね、ソルサリアに帰る前にね」
あわただしくエレインが来る。
エレイン「ジャバウォックが出たらしい。行ってくる」
アリスロッテ「(驚いて)行ってくるって? 倒すの?」
エレイン、棚の上のフレア・シェルを手に取る。
エレイン「(おじいちゃんに)裂け目を消すのは苦手だ。私にとってこの石はもっぱら戦闘用」
アリスロッテ「ジャバウォック倒しちゃダメ!」
エレイン戸惑う。
エレイン「(少し考えて)ねえ、アリスロッテ。ここは私たちが唯一住める場所でしょ? ここを守るためよ。少しは嫌なことも我慢して」
アリスロッテ「いやだそんなの。(怒りながら)人間が生きていくためには、何をしてもいいの?」
エレイン「ハァ(ため息)。ごめん、急いでるの。後にしましょう」
エレイン、外に出て行き、扉が閉まる。
アリスロッテ「(締まったドアのほうに向けて)ジャバウォック、倒さないで! (一拍おいて)お母さん!」
一拍置いて、アリスロッテ、立ち上がって玄関に向かう。
19 マリーナル(異界)の村の広場(夜)
広場に立つ村人5人(カッパ)と、エレイン。
SE:ジャバウォックの咆哮
エレイン「まだ遠いようだな」
村人(カッパ)「ああ、でもこないだは一瞬で降りてきた」
遠くの山から魔法の弾が空へ向けて3発、長い尾を引いて放たれる。
エレイン「(魔法弾見留め)あれは?」
20 同、山の中の開けた場所(夜)
ジャバウォックが 警戒している。それと対峙して、アリスロッテ、片手を高く突きあげている。ジャバウォックがアリスロッテを威嚇する。アリスロッテ、空に向けて魔法弾を放つ。ジャバウォックは怯む。
アリスロッテ「こっちはダメ。殺されちゃう」
ジャバウォック、警戒音を出して鳴く。
SE:ジャバウォックの警戒音
アリスロッテ「大丈夫。痛くしないよ」
✕ ✕ ✕
別の場所、ほかのジャバウォックがその声を聞き顔をあげる。
✕ ✕ ✕
戻って、闇の中から、新たに2匹のジャバウォックが現れる。
アリスロッテ「なんで増えるのよう」
アリスロッテ、3発の魔法弾を空に向けて放つ。
ジャバウォックは一瞬怯み、すぐに戦闘態勢を取る。
アリスロッテ「助けてあげるのに。私がみんなのこと、助けてあげるのに!」
アリスロッテ、両手のひらで胸の前に三角形を作る。そこにいままでよりも大きな光が集まってくる。
21 同、村の広場(夜)
広場から魔法弾が見えたあたりを眺めるエレイン。そこに地面からオーロラの壁が噴き上がるのが見える。村人たちもそれを見ている。
エレイン「マナウォール? アリスロッテなの?」
村人(カッパ)「泉の方だな……」
エレイン、駆け出す。
22 同、山の中の開けた場所(夜)
円柱状の虹色の光の壁、マナウォールに囲まれたジャバウォック。ジャバウォックたちはキョロキョロ向きを変え、威嚇して壁に噛み付こうとする。唸り声をあげるもの、足元の土を蹴るものもいる。
アリスロッテ「落ち着いて、お願い……いじめないから……」
ジャバウォック、アリスロッテを威嚇する。アリスロッテは魔力を発している手に力を込める。マナウォールの輝きが増す。
23 同、山道(夜)
走るエレイン、木々の切れ間からマナウォールが見える。
24 同、山の中の開けた場所(夜)
ジャバウォックの様子は変わらず。
アリスロッテ「(疲れて)ふぅ……」
アリスロッテ、少し手が下がる。
マナウォールの光が弱まる。
アリスロッテ「でもこれ、どうすればいいんだろう……」
威嚇してくるジャバウォック。アリスロッテ、涙をこぼす。
アリスロッテ「助けてあげるのに……」
マナウォールの光が途切れて消えかける。そこに踏み込んでくる誰かの足。カメラを上げると、その手にはフレア・シェル。続いて全身が見える、その姿はおじいちゃん。
アリスロッテ「おじいちゃん?」
おじいちゃん、アリスロッテの隣に立って、アリスロッテの左手を取る。
フレア・シェルが輝き、そのエネルギーがおじいちゃんを介してアリスロッテに伝わる。
マナウォールが激しく輝き始める。
アリスロッテ「これは?」
おじいちゃん「石と気持ちをひとつにするんじゃ」
アリスロッテ、真剣な表情で小さく頷く。マナウォールが強く輝き始める。
25 同、山道(夜)
エレイン、輝きを増すマナウォールを見留め、足を止める。
エレイン「マナウォールが……」
26 同、山の中の開けた場所(夜)
怯えているジャバウォック。
おじいちゃん「さあ、逃してやってくれるか?」
アリスロッテ「やってみる」
アリスロッテ、目を閉じて意識を集中する。マナウォールの向こう側が開き始める。ジャバウォックたち、それに気がついて、そちらから駆け去っていく。
27 村長宅 姉の部屋の前の廊下(朝)
コート、部屋の前に駆け込んできて扉をノックする。
コート「弟です! 入ります!」
コート、扉を開け部屋に飛び込み、扉は閉まる。
コート(オフ)「やばいものは2秒で隠……し……あっ……」
扉が開いて、コート、出てくる。
コート、扉を閉め、扉に背を向ける。
コート「(部屋の中に聞こえるように)今朝もまだおじいちゃん帰ってきてないんだけどー! どこ行ったか聞いてないー?」
コート、そっと扉を開いて中をのぞく。
コート「『聞いてない』、と。そうだよね、昨日も言ってたよね」
コート、扉を閉め、扉を背にする。ほっと溜息をつくコート。コート、扉を開けて、中をのぞく。
コート「僕さっき、何も見てないからね」
28 マリーナル(異界)の村の寄り合い所 外観
俯瞰気味のロング。鶏が数羽放されてる。
中から村人(カッパ)が出てきて、飼料入れに菜っ葉の切れ端を入れる。別の村人(カッパ)が来て、軽く挨拶を交わして家に入っていく。
29 マリーナル(異界)の村の寄り合い所 中
窓から差し込む光。台所でお湯が湧いている。車座になって、村の人たち4人とエレインが話し合っている。
村の人たちはカッパに見える。
村の人A(カッパ)「そもそもあんたの娘が、モンスターにちょっかいを出すのが悪いんじゃないのか?」
村の人B(カッパ)「人とはろくに話もせんし」
村の人C(カッパ)「しかもなんだ、あの魔力は、あれでいずれこっちがやられるかも知れんのだぞ」
村の人D(カッパ)「お菓子屋さんも引っ越してしまったし!」
エレイン「カッパに見える」
村の人A(カッパ)「(立ち上がり)カッパとはなんだ! 失礼な!」
30 マリーナル(異界)の村はずれ(夕方)
空間の歪みがある。おじいちゃんは歪みのそばに立ち、アリスロッテとエレインはおじいちゃんの方を向いて立つ。
おじいちゃん「じゃあ、わしはこれで帰るー」
アリスロッテ「私もすぐ行くね!」
エレイン「(制するように)アリスロッテ!」
おじいちゃん「んー、もっともっと練習してからじゃな」
アリスロッテ「する! 歪みを消したり広げたり、なんでもできるようになって、おじいちゃんちに遊びに行く!」
エレイン「ハァ(呆れ気味のため息)」
おじいちゃん「ひょひょひょ。それじゃあ、スイカでも買っておくかのう」
おじいちゃん、歪みにフレア・シェルをかざす。歪みが空間を四次元軸方向にぐいっと押し込むように深くなる。周囲の空が暗くなり、旋風が巻く。
エレイン、不安そうに、アリスロッテ、ワクワクした顔でそれを見ている。
おじいちゃん、ふと何かを思い当たり、フレア・シェルをかざすのをやめ、エレインに振り返る。
おじいちゃん「フレア・シェルを使う時は、気をつけてな」
エレイン「どうしたの? 急に」
おじいちゃん「フレア・シェルは自己犠牲の石と言うて、気持ちを合わせすぎると、闇にとらわれる」
神妙な面持ちで聞いているエレイン、アリスロッテ 。
おじいちゃん「娘をそれで失い、娘婿も絶望して村を出た。残されたのは二人の孫だけじゃ」
アリスロッテ「(決意の目)それじゃ、私たちがおじいちゃんの家族になる!」
エレイン「(あきれたように)アリスロッテ……」
おじいちゃん「それじゃあな」
おじいちゃん、シェルを歪みにかざす。
アリスロッテ「(おじいちゃんに)この歪み、消さないでね! すぐ行くから!」
おじいちゃん、にっこり微笑む。
歪みは空間を押し出し、激しい地響きを伴い別世界への裂け目となって、おじいちゃんを飲み込む。
時間経過後、裂け目は消え、もとの空間の歪がゆらめいている 。
アリスロッテ「(エレインの腕をつかみ)練習しよう! 練習!」
エレイン「自己犠牲の石かー。嫌いなんだよ、そう言うのー」
アリスロッテ「だからうまく使いこなせないんだよ、お母さんはー。私に貸してって言ってるでしょう?」
31 村はずれ(ソルサリア)(夕方)
空間の歪みがある。歪みを見つめているおじいちゃん。空間の歪みの中にかすかにエレインとアリスロッテの姿が見える。
おじいちゃん「来ちゃいかんよ。こっちは戦争のさなかじゃ」
おじいちゃん、フレア・シェルを歪みにかざす。歪からフレア・シェルにエネルギーが吸い取られ、歪みは小さくなって消滅する。
コートの声が聞こえる。
コート(オフ)「あっ!」
おじいちゃん、声に気がついて振り向く。コートが駆けてくる。
おじいちゃん「あー、コートー。元気にしとったかー?」
コート「元気にしとったかーじゃないよ、いままでどこに行ってたんだよ、心配してたんだからね!」
おじいちゃん「歪みを消してたんだよー。ところであの、もう一人の兄だか姉だかはどうしとる?」
カメラ引きながら、フェードアウトにかぶせつつ。
コート「兄だか姉だかって、覚えてないの? て言うか、なんで浮き輪?」
32 マリーナル(異界)の村はずれ(夕方)
前の同場所のラスト(シーン番号30)と同ポジ。
歪みがゆらめいている前で、うんざりした表情のエレインと、その袖をつかんでるアリスロッテ。
アリスロッテ、しきりにエレインに何かを訴えているが、その横で歪みはだんだん小さくなり、消える。
アリスロッテ、歪みを指さし、エレインに何かを訴える。アリスロッテが指差した場所には歪みはない。ふたりは歪みが消え去ったことに気がつく。
アリスロッテ「消えてるーっ?」
愕然とするアリスロッテ。アリスロッテの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれる。
アリスロッテ「消さないでって言ったのにーっ」
カメラ引いて、広大な森の中に開けた平地にある集落、そのはずれの家、アリスロッテの声が響く。
アリスロッテ「どうしてーっ」
33 マリーナル(異界)エレインの家の前(早朝)
2頭の白黒のヤギがいる。テーブルの上には バックパック。しゃがんでヤギに草を食べさせているアリスロッテ。
T:「第二話 ソルサリアにて」
家からエレインが出て来る。
アリスロッテ「どうしたの? このヤギ」
エレイン「わけてもらったんだ」
アリスロッテ「もらっちゃったんだ。繁殖させるの?」
エレイン「いや、どっちも女の子。繁殖は無理だけど、乳が絞れる」
アリスロッテ「ふーん」
エレイン「それじゃ、留守番よろしくね。1週間くらいで帰れると思う」
アリスロッテ「ごはんは?」
エレイン、ヤギを指差す。アリスロッテ、ヤギを見る。
アリスロッテ「うええーっ?」
ヤギ、鳴く。
SE:ヤギの鳴き声「メヘへー」
エレイン「あ」
エレイン、 部屋に戻る。エレイン、フレア・シェルを持って出てきて、バックパックに詰める。
エレイン「忘れるところだった」
アリスロッテ「歪みを消しに行くの?」
エレイン「山2つ超えた向こうに、大きいのがあるらしい。このあたりの歪みは消すしか無いけど、山奥だったら、練習にも使える」
アリスロッテ、期待の表情に変わる。
アリスロッテ「(立ち上がり)空間に穴をあける練習?」
にっこり微笑んで返すエレイン。
アリスロッテ「ソルサリアにも行けるようになるの? 私も行く!」
エレイン「私のお荷物を増やすつもり?」
アリスロッテ「お荷物にならない! 私、お母さんの相棒になる!」
34 マリーナル(異界)エレインの家の前(夕方)
夕方。バックパックが置いてあったテーブル前の椅子に座り、べったりと体を預けて寝そべったアリスロッテ。ぼんやりとヤギを見てる。
ヤギたちはそのへんの草を食んでいる。
SE:腹の虫
体を起こして、何か決意するアリスロッテ。
✕ ✕ ✕
時間経過を示すフェードを挟んで、ヤギの乳を絞るアリスロッテ。
✕ ✕ ✕
時間経過を示すフェードを挟んで、アリスロッテ、バケツから金属の大きなボトル(ネロ少年がパトラッシュと運んでいたもの)にヤギの乳を移す。
アリスロッテ、金属のボトルから、マグカップにヤギの乳をいれる。
アリスロッテ、マグカップに鼻を近づけ、臭いを嗅ぐ。
✕ ✕ ✕
草むらにゲロを吐いてるアリスロッテ。(ロングの後ろ姿)
35 マリーナル(異界)の山岳地帯
緩やかな丘陵に巨大な岩がゴツゴツと顔を出している。まわりには急峻な山岳。カメラは引いて、エレインが歩いてきた長い道のりを映す。
坂道を登り切るエレインの姿が見える。エレインが見上げると、歪みがある。
エレインは歪みの前に立ち、 カバンを置く。カバンと反対の手にはフレア・シェルを持っている。
エレイン、天を仰ぎ、何かに納得したようにうなずき、手に持っていたフレア・シェルを裏返す。
✕ ✕ ✕
カメラをロングに切り替え、少し離れた場所から、空間の裂け目が現れ、光が漏れだし、エレインの体が飲み込まれていくのが見える。
その後に巨大な地響きが伝わり、爆風が駆け抜ける。
36 フリオリ山のふもと
双眼鏡でのぞいたカットからスタート。フリオリ山のタッカー城が見える。タッカー城は雪と氷に閉ざされている。城からわずかに立ち上がる光が見て取れる。
エルロン(オフ)「どう? 歪みに変化は?」
✕ ✕ ✕
山道の途中に止められた馬車。あたりには雪が降り積もっている。二頭立ての馬車の御者台に座っているフラップ。その下に立つエルロン。フラップは双眼鏡で山の上にある城を見上げている。
フラップ(24)「(双眼鏡を外し、振り向いて)わからない。さっき光ったっきり、今は落ち着いている」
馬車の中から、熱っぽい表情のアルミナが顔をだす。
アルミナ(25)「さきほどの地響きの件ですか?」
エルロン(24)「ええ、おそらく」
フラップ「(キャビンの方を振り返り)姫はお休みになっていてください。また熱が上がりますよ」
エルロン「行こう、夕方に間に合わなくなる」
アルミナ「待ってください。タッカーのお城の歪みに異変があったんですよね? 調べずにこのまま行くのですか?」
フラップ「あの城が廃墟になってずいぶん経ちます。あそこに守るべきものなど、残っていませんよ」
アルミナ「そうですか……すみません……」
しょんぼりするアルミナ。
アルミナの様子を見ているエルロン。
エルロン「(フラップに向き)今日は月明かりがある。夜通し走れば朝には合流できる」
フラップ「(少し考えて)わかった。この先で馬車を回す」
エルロンはキャビンに乗り込み、フラップ、馬に鞭を入れる。
アルミナ「ありがとう、エルロン」
エルロン「いまのうち休ませてもらいます。姫も休んでください」
アルミナ「(咳をして)ええ、でも、歪みは私が見ます。私から報告したいんです、お兄様に」
37 タッカー城、玉座の間
氷に閉ざされた玉座の間。玉座の前には空間の歪みが揺らめいている。
歪みの前に倒れているエレイン。
エレイン、はっとして目を開け、体を起こす。
エレイン「気を失ってたのか……」
エレイン、立ち上がりまわりを見る。
きらびやかな玉座やタペストリー、絵画や装飾扉などがエレインの目にとまる。
エレイン「なんだここは……(圧倒されている)」
息が白い。
エレイン「(ぶるっと震えて)さぶっ……」
エレイン、歪みの方へ近寄る。歪みは震え始め、地鳴りを響かせる。エレインの胸元から、フレア・シェルが反応して明滅する光が漏れる。
エレイン「反応しているのか……」
歪みの地鳴りは鎮まり、フレア・シェルも落ち着く。
38 同、廊下
車椅子を押すフラップ。車椅子に座り、まわりをながめているアルミナ。
アルミナ「よかった。廃墟というから、何もかも壊れてしまってるのかと思っていました」
フラップ「場所によりますね」
アルミナ「そうなんですか?」
フラップ「王の間、王妃の間、それに宝物庫あたりはめちゃくちゃですよ。歪みから化物が湧くとは言っても、盗賊も必死ですから」
アルミナ「そうでしたか……。とりあえず、その歪みの様子だけ見て帰りましょう」
39 同、階段
踊り場に車椅子が置かれている。
その下、アルミナの手を取り、いっしょに階段を登るフラップ。
手すりとフラップの手を頼りに階段を登るアルミナ。
40 同、使用人の部屋
エレインは窓に下がった濃紺のカーテンを引きちぎる。
エレイン「さぶさぶ……」
エレインは引きちぎったカーテンを頭にかけて、一辺を肩に掛けて隙間なく羽織る。
息を吐いて手を温める。
エレイン「ソルサリア、寒いなー。じいちゃん、あんな薄着で大丈夫だったかなあ」
エレイン、ワードローブを見留める。
カーテンをかぶり引き摺ったエレイン、ワードローブをのぞき、メイド服がずらっとぶらさがっているのを見つける。
エレイン「おっ!」
エレイン、メイド服を引っ張りだして広げて見る。
エレイン「アリスロッテとおそろいで着れるねえ!」
エレイン、ワードローブの中の小さな引き出しを見留め、開ける。中には金をベースにした大粒の宝石が入ったネックレス。
エレイン「わーお!」
✕ ✕ ✕
時間経過のフェードを挟んで、ネックレスを身につけたエレイン。
エレイン「后の部屋じゃないみたいだし……使用人の部屋になんで……?」
エレイン、下の段の引き出しをあける。
引き出しからは黄金色の光が溢れ、エレインの顔を染める。
41 同、廊下(夕方少し前)
廊下には様々な甲冑が並ぶ(その中には後に鬼神と呼ばれるようになったマグレフが身に付けるものもある)。カーテンにくるまって、金のネックレスやティアラを乱雑に重ね、死霊の魔道士のような姿になっているエレイン。壁にかけてある剣をはずし、手にとってながめる。
二三度剣を振るって構えてみるエレイン。
何かの気配を感じ、手を止める。
廊下の奥の方から声が反響して聞こえてくる。
アルミナ(オフ)「このあたりは覚えています」
フラップ(オフ)「この絵は后のお気に入りだったそうですよ」
✕ ✕ ✕
カメラ、廊下の向こう、アルミナとフラップの方に移る。
アルミナの車椅子を押すフラップ。
フラップ「ここを荒らした化け物、王妃の亡霊だって言われていたんですよね」
アルミナ「王妃の亡霊?」
フラップ「ええ、王をそそのかした使用人に復讐するために蘇ったんだって」
アルミナ「そう言えば、聞いたことがあります」
フラップ「ま、歪みから化物が現れるなんて知られていなかった頃の話ですけどね」
フラップ、角を曲がると、目の前に怪しい姿のエレインが立っている。エレインは前述の描写に加え、両手に剣を持ち、くるまったカーテンの隙間から、片目だけがらんらんと輝いてる。
アルミナとフラップ、言葉を失い、エレインを見たまま固まる。
エレインの胸元のフレア・シェルが怪しく明滅し、壁や天井がビリビリと震え、パラパラとコケラが落ちてくる。
フラップの脳内で検索ページが開かれる。検索窓に文字が入力される。
T:「もし熊にあったら」
『検索する』ボタンにカーソルが移動し、押される。ページ遷移し、結果が脳内にずらずらと表示される。
T:(「もし熊にあったら」の検索内容)
フラップ「臨界距離は12メートル……」
アルミナ「どうして熊で検索?」
カメラ切り返し、エレイン視点からアルミナとフラップを見る。
アルミナとフラップは身動きできずにエレインを見ている。
エレイン、アルミナとフラップの顔を交互に見比べる。
マリウス(N)「エレインはここ数日、カッパ以外の人間を見たことがなかった」
エレイン「カッパじゃない!」
フラップとアルミナ、びくっとする。
フラップ「(生唾を飲んで。弱々しく)カ、カッパじゃありません……」
エレイン、両手に剣を持っていることに気が付き、投げ捨てる。
エレイン、フラップとアルミナに歩み寄ってくる。
エレイン「(歩み寄りながら)ソルサリアの者だな? この世界に部屋をさがしに来た!」
カメラ切り返して、再度この様子をフラップとアルミナ視点から。
エレインはスローモーションで両手に持った剣を投げ捨て、近づいてくる。
エレイン「(スロー再生で)ソルサリアの者だな? この世界に部屋をさがしに来た!」
スローモーションで、フラップ、涙目で車椅子を反転させ、逃げ出そうとするが、足を取られ転ぶ。車椅子は手を離れ慣性で前に押し出される。
エレイン「あ、だいじょうぶですか? 怪我はないですか?」
フラップは立ち上がり、車椅子に駆け寄りアルミナを抱きかかえ、俵担ぎにして逃げる。
エレイン「あっ、待って!」
追いかけるエレイン。アルミナの顔は後ろを向き、追ってくるエレインの顔が迫ったり離れたりする。アルミナは熱でぼんやりしている。エレインの顔が王家の亡霊のように見え、アルミナ、気を失う。
42 同、玄関(夕方)
馬車の御者台に座ってぼんやりしているエルロン。
城の中から、気絶したアルミナを抱きかかえたフラップが飛び出してくる。
エルロン「ちょ! それ! 何があったんだ?」
エルロン、御者台から降りてキャビンの扉を開ける。
フラップ「なんか出た!」
エルロン「なんかってなんだ?」
フラップ、アルミナを馬車の中に入れる。
エルロン「大丈夫ですか? アルミナ姫?」
フラップ「すぐに馬車を出せーっ!」
43 同、廊下(夕方)
二階の廊下を走っているエレイン。行く手を瓦礫に塞がれる。エレイン、窓の外を見ると、フラップが馬車に乗ろうとしている。
エレイン「あっ! 待って! ここはどこなの?」
エレイン、瓦礫の中の手頃な椅子に目を留める。
44 同、玄関前(夕方)
2階のガラス窓が椅子で叩き割られ、ガラスがぱらぱら落ちてくる。
馬車に乗り込んで扉を閉めるフラップ。
フラップ「(血走った目で)早くーっ!」
エルロン、馬に鞭を入れる。馬は大きくいななき、馬車は走り始める。
45 マリーナル(異界)の村
とある家の玄関先に立っているアリスロッテ。
俯瞰で、家の人の姿は見えないポジション。
村の人「食べ物を? そんなものあるわけないだろう、お菓子屋さんも引っ越しちゃったんだぞ!」
46 マリーナル(異界)のエレインの家の外
草を食んでいる2頭のヤギ。
テーブルの上にヤギ乳を絞ったボウル、そのとなりに本を開いて読んでいるアリスロッテ。本のタイトルは「0からのチーズ作り」。
アリスロッテ「米のとぎ汁で乳酸菌を作ります……」
✕ ✕ ✕
流し場で米を研いでいるアリスロッテ。
✕ ✕ ✕
日向に米のとぎ汁が入ったボウルが置かれている。
壁に背中を預けて座って本を読んでるアリスロッテ。
アリスロッテ「砂糖と塩を入れて、数日放置……」
✕ ✕ ✕
夜、ボウルが放置されている。
部屋から灯りが漏れてる。
✕ ✕ ✕
翌朝、玄関の扉が開く。アリスロッテ、出て来てボウルを覗きこむ。
✕ ✕ ✕
ゲロを吐いてるアリスロッテ。
47 フリオリの山道 分岐点
雪が積もった山道。
左は山頂、右は麓を示す道標がある。カーテンにくるまり、それを見ているエレイン。山頂と麓、順に仰ぎ見る。
48 フリオリの山道 岩陰
分岐点にいるエレインの様子を、少し離れた場所から双眼鏡で見ているエルロン。
エルロン「俺たちを探している」
双眼鏡をはなすエルロン。
エルロン「なんなんだあいつは……」
フラップ「わからん。亡霊かなんか? 俺たちを追ってくる」
エルロン「このままヤツを連れて帰るわけにはいかん。ここで叩こう」
フラップ「アルミナ姫は?」
エルロン、馬車の中で熱を出して椅子に斜めに座り眠っているアルミナを見る。
エルロン「馬車は木陰に隠して、馬を囮に使う。ヤツはどっちに行った?」
フラップ「おそらく、こっちに向かってきてる」
エルロン「二手に別れて追い込もう」
馬車の中から声がする。
アルミナ(オフ)「馬はそのままにしておいてください」
エルロン、フラップ、振り返る。
エルロン「アルミナ姫……」
アルミナは熱でぼんやりした表情。
アルミナ「大丈夫。(窓の外を見ながら)霧が隠してくれますから」
フラップ「霧が?」
49 フリオリの山道 分岐点
霧が出ている。
歩いているエレイン。
エレイン「(足を止め)あれ? 上り坂?」
エレイン、あたりを見回す。
エレイン「まいったなあ、何も見えない……」
エレイン、霧の中に、うっすらと影を見留める。エレイン、影に近づく。さきほどの道標が目に入る。
エレイン「さっきもこれ見たよ! ぐるっと回ってただけかよ!」
50 馬車の中
エレインの声が聞こえる。
エレイン(オフ)「さっきもこれ見たよ! ぐるっと回ってただけかよ!」
アルミナ、目を覚ます。
窓から外を見ると、エレインの姿がシルエットで見える。アルミナ、頭を下げて隠れる。
アルミナ「霧よ……私を隠して……」
51 フリオリの山道
エレインの目の前の道標が霧に隠れる。
エレイン「霧が濃くなった……」
エレイン、左右を見渡す。
エレイン「どうなってるんだおーい! 誰かー! 誰かいませんかー!」
エレイン(M)「チッ、異界の人たちは冷てえなあ……」
エレイン、大きく息を吸い込む。
エレイン「(どすをきかせ)うぉーい! 聞こえてんだろーっ!」
その声が木霊する。
✕ ✕ ✕
この声を少しはなたところで聞いているエルロン。
✕ ✕ ✕
同、フラップ。
52 馬車の中
馬が怯えいななく。
揺れる馬車内。
アルミナ、決意し、剣を取る。
アルミナ「マグレフ様、私に力を」
53 フリオリの山道
左右を見ながら歩いているエレイン、目の前にアルミナのシルエットを見留める。
アルミナもエレインの姿を見留め、目を細め、手で霧を払うような仕草。
霧がゆっくりと晴れていく。
エレインの目の前に、剣を片手下段にかまえたアルミナの姿が浮かび上がる。
アルミナ「氷に閉ざされたとは言え、タッカーは我が宗主国。その城を荒らす者は、私が許しません」
エレイン(M)「いや……、なんで喧嘩腰?」
アルミナ「観念しなさい! 悪霊っ!」
アルミナ、回転して間を詰め、剣を片手で下から振り上げる。
エレイン、左手の短剣で受け流す。
アルミナ、次の一撃。
エレイン、体を翻しこれを躱し、距離を取る。エレインは馬車の方に位置する。
エレイン「待って! 二人が戦うことなんてないと思うよ? ねえ、待って!」
アルミナ、大上段からの一撃。
エレインが避け、馬車に剣が食い込む。
アルミナ、剣を抜こうとするが抜けない。
アルミナ、手で剣を抜くのを諦め、馬車の扉にケンカキック、扉が歪んだところでノブを引くと食い込んでいた剣は落ち、それを拾い、エレインを睨む。
エレイン「(少し怯えて)オニ……?」
アルミナ、朦朧としながらゆらゆらと近づいてきて、ぬるりと剣を振り上げ、横から叩きつける。
それを短剣で受けるエレイン。
その攻撃は軽くあたっただけで、アルミナ、一回転し、反対からもう一撃。
エレイン、これをまた短剣で受け、1歩後退。
アルミナ踏み込んで掬いあげるような突き、エレイン、余裕の表情でよけるが、アルミナ、前傾姿勢を取り、更に剣が伸びてくる。
エレイン(M)「伸びたっ?」
避けきれず左腕に傷を負う。雪の上にエレインの血が滴る。
エレイン(M)「(傷を押さえながら)チッ、完全に向こうの間合いか……」
アルミナの攻撃、エレインは体を開いて躱し前転、アルミナの横をかすめ背後へ、反転し、アルミナに跳びかかり、低い体勢からアルミナの軸足に切りつける。
エレイン(M)「すまん、ここで死にたくはないんだ」
アルミナ、とっさに軸足を浮かし、そのまま体を捻り、体を落としながらエレインに剣を浴びせようとする。
エレイン(M)「はいい?」
エレイン、左手の短剣をアルミナの剣に当ててかわすが、エレインも体勢が崩れている。
アルミナ、受け身を取ろうとするエレインの背中に手をつき叩き落とし、反動で左手に転がり、受け身を取り立ち上がる。
エレイン「ガハッ!」
地面に這いつくばるエレイン、アルミナ 、振り返り、剣を高く構える。
アルミナ「成敗いたします!」
エレイン「しょうがない!」
エレイン、半身を起こしてアルミナに向けて身構え、右掌を上に向け火球を生じさせる。
しかし、アルミナは立ったまま熱で朦朧として、足元がおぼつかなくなる。
アルミナ、崩れるように倒れる。
エレイン、しばし戸惑い、アルミナに駆け寄る。
エレイン「大丈夫か?」
息が上がってるエレイン、左手から血が滴る。顔を覆ってた布をおろし、汗を拭う。
54 馬車の中
椅子に寝かされたアルミナ。
隣りに座るメイド姿のエレイン、左腕には包帯が巻かれている。
エレイン、鞄から薬を取り出す。
うっすらと目を開けて、エレインの姿を見るアルミナ。
アルミナ「メイドさんがどうして……?」
エレイン「気がついた? ちょうどよかった、(薬をアルミナの口に押し込みながら)これ飲んで」
アルミナ、薬を飲む。
アルミナ、革の水筒を口に当てられ、その水を飲み、眠りにつく。
エレイン「これでよくなるよ、きっと」
エレインの胸元のフレア・シェルが輝く。
エレイン、それに気が付く。
エレイン「まただ。何かに反応している」
55 フリオリの山道
フレア・シェルを見ているエレイン。
エレイン、フレア・シェルを持って、ぐるっと周囲にかざす。
麓の方向に向けたときにフレア・シェルの反応は大きくなる。
エレイン「この先に何かあるのか?」
馬車の前に脱ぎ捨てられているカーテンを拾い上げるエレイン。
✕ ✕ ✕
同じ場所。少し時間が経過して、エルロンとフラップが戻ってくる。
エルロン「やっと戻れた」
フラップ「なんだったんだ、あの霧は」
エルロンとフラップ、雪上に残された足跡、血痕、馬車についた傷を見る。
エルロン「これは?」
フラップ「誰かが戦ったあとだ」
エルロン「まさか姫が?」
エルロン、馬車を覗き込み、眠ってるアルミナを見留める。
エルロン「大丈夫だ」
フラップ「姫を頼む。俺はこの足跡をたどる」
56 麓の断崖
雪がまばらなフリオリの麓、渓流につき出た断崖に、空間の歪みが浮かんでいる。
エレイン「これに反応してたのか……」
歪みに近づいてくるエレイン。
エレインは歪みの前まで来て、手に持っていたカーテンをその場に投げ置く。
✕ ✕ ✕
それをとても離れたところから、目を凝らして見ているフラップ。
少し靄がかかっている。
フラップ、稜線に姿を隠し、双眼鏡を覗く。
✕ ✕ ✕
エレイン、投げ捨てたカーテンにからみついてる金のネックレスを見留める。
エレイン「あっ、アリスロッテのおみやげ……」
エレイン、カーテンを拾い上げて、ネックレスを取ろうとする。が、刺繍が絡まって取れない。
エレイン「むきーっ! なんでこんなヘンな刺繍ばっかなんだよ、貴族の持ちモンは!」
エレイン、両手でカーテンを掴んで前後に揺さぶる。
✕ ✕ ✕
遠くから双眼鏡で眺めているフラップ。
エルロンがやってくる。
エルロン「馬車は安全な場所に移動させた。(双眼鏡をのぞいたままのフラップに気がついて)何かあるのか?」
フラップ「メイドがさっきの悪霊と戦っている……」
エルロン「はあ?」
✕ ✕ ✕
カメラはエレインへ戻る。
地面にカーテンを叩きつけるエレイン。突風に煽られ、カーテンがめくり上がる。
エレイン「うっとおしい!」
エレイン、カーテンに魔法の火球を見舞う。笑みを浮かべるエレイン。
エレイン「(表情一転)しまった! ネックレス!」
エレイン、カーテンを足で蹴って火を消し、しゃがんでネックレスをむしりとる。
✕ ✕ ✕
エルロンフラップの位置から双眼鏡でのぞいた景色。靄のせいでシルエットしかわからないが、メイドが黒い影と戦っている姿が見える。
✕ ✕ ✕
双眼鏡で眺めているエルロン。その隣で見守るフラップ。
エルロン「ヤバいぞ、あのメイド……。悪霊を炎で焼いて足蹴にしてる……」
✕ ✕ ✕
エレイン、ネックレスについていたガーネットの薔薇(本編でアリスロッテがつけているもの)を手にして、笑みを浮かべる。
ガーネットの薔薇に空間の歪みのゆらめきが映る。
エレイン、振り向いて空間の歪みを見る。
エレイン「そろそろ帰らないとな……」
✕ ✕ ✕
時間経過後、空間の歪みの前、馬車が来て止まる。
エレインの姿は無く、カーテンの燃え残りが放置されている。
歪みは先程より大きく、不安定。
馬車の御者台から降りるエルロン。
フラップ、反対側から降りて、背後を警戒しながら歪みの方へ歩く。
エルロン「こんなところにも……」
フラップ「かなり不安定だな。あのメイドが何かやったのかな」
フラップ、足元に焼け焦げたカーテンがあるのに気がつく。
エルロン「悪霊のか?」
フラップ「ああ、おそらくそうだな」
エルロン「メイドは?」
エルロン、あたりを見回す。
フラップ、空間の歪みを見つめている。
歪みが揺らぐ。
フラップ「ん?」
エルロン「どうした?」
歪みは大きく揺らぎ始める。
エルロン「(怯え)ひ、歪みがっ!」
エルロンとフラップ、歪みを見据えたままあとに下がる。
歪みは裂け目となり、爆音、激震とともにメイド服姿のエレインが姿を表す。
エレイン「なるほど! コツがつかめてきたぞ!」
怯えているエルロンフラップ 。
エレイン「(二人を見留め)あっ! あんたたちはさっきの!」
エレイン、エルロンフラップに歩み寄る。
エルロン+フラップ「ひっ!」
エレイン「身を寄せる場所を捜してるんだ。娘と二人で。いやあ、それが、こっちの世界は初めてで、勝手がよくわからんのだわー」
エルロンフラップと対峙するエレイン。強めの風が吹く。
エレイン「(ぶるっと震えて)さぶっ!」
エレイン、あたりを見回し、後ろに落ちてる焦げたカーテンを拾い上げる。カーテンには血糊が付いてる。
エレイン、カーテンにナイフを入れて引き裂き(焦げた部分を除去し)、羽織る。
エルロン+フラップ「ひいっ!」
エレイン、馬車を見留める。
エレイン「あっ、(エルロンフラップを見て)お姫様は元気?」
エルロンフラップ、戸惑う。
エレイン、馬車に近寄り、中をのぞく。
うっすらと目を開けるアルミナと目が合うエレイン。
エレイン「よかった。(エルロン、フラップの方を振り向いて)私が助けたんだ」
エルロンとフラップは、地面に落ちたカーテンの燃え残り、馬車の傷、エレインの二の腕の包帯、羽織った布に残る血糊、と視点移動し、怯えた作り笑いでコクコクと頷いてサムズアップ。
57 マリーナル(異界)のエレインの家の外
草を食んでいる2頭のヤギ。
アリスロッテ、テーブルの上にある木枠から、布に包まれた白い塊を取り出す。
布を開けると、できたてのチーズが出てくる。
アリスロッテ、チーズの匂いを嗅ぐ。少し不審な表情をするが、もう一度嗅いで、少し考えて、納得した表情になる。
アリスロッテ「悪くないかも……」
✕ ✕ ✕
草むらでゲロを吐いてるアリスロッテ。
58 フローレンス城 外
まばらな林がある遊牧地、いくつかの家や小屋、なだらか起伏がある草原、半自然の堀を越えたところにフローレンス城が建っている。曇天。風は強く、城門に飾られた旗を強くはためかせている。
エレインたち4人を乗せた馬車が城門をくぐる。御者台はエルロン。
59 フローレンス城 ホール
外に馬車が止まり、アニエス参謀長とその従者2名のオルタネイト(髑髏模様の黒騎士)が玄関ホールに出向かえる。
馬車からはフラップの肩を借りてアルミナが降りてくる。
ホールの奥から車椅子を押したオルタネイトが来て、アルミナを迎える。
60 フローレンス城 執務室
古く格式のある椅子や机、サイドボード、本棚、積み上げられた資料、壁には地図が掛けられている。
応接用のソファで本を顔に乗せて寝ているファデリー 。
T:「第三話 フローレンス城襲撃」
SE:ノックの音
アニエス(オフ)「参謀長、アニエス・ベルナウア。アルミナ様をお連れしました」
ファデリー(32)「(寝たまま)ああ、通せ」
SE:ドアが開く音
アニエス(オフ)「失礼します」
アニエス、ファデリーの近くまで来る。後ろにはアルミナの車椅子を押すフラップの姿がある。(カメラには映らないが、更に後ろにエルロンとエレインもいる)
ファデリー「(寝たまま)何かあったのか?」
アニエス(24)「そこを空けてもらえますか?」
ファデリー、顔の上の本を取ってアニエスの顔を見る。
✕ ✕ ✕
時間経過。
さきほどファデリーが寝ていたソファに、大きなクッションに支えられるように熱っぽいアルミナが座っている。その後ろに控えるエルロンとフラップ、その横にエレイン。
ファデリーはアルミナの対面のワンシーターのソファに座り、その後ろにアニエスが控える。
アルミナ「……報告は以上になります」
ファデリー「わかった。あとはもう無理はせず休んでいろ」
アルミナ「はい」
ファデリー「(アニエスに、エレインを差しながら)そいつが悪霊を倒したメイドか?」
エレイン「ああ、そういうことになってるみたいだな」
エレインを睨むエルロン。
エルロン「(小声で)なんだその言葉遣いは」
ファデリー「かまわん。『そういうことになってる』とはどういう意味だ?」
エレイン「考え方次第だ。難しく考えるな」
ファデリー「ああ、そうしよう。なぜここへ来た?」
アニエス「働き口を探しているそうです」
ファデリー「メイドの?」
ファデリー、あらためてエレインの様子を見やる。メイドの服は来ているが体躯が大きいので服が短い。胸元にはアリスロッテへのお土産にと手に入れたブローチが飾られている。(後にアリスロッテに譲られる)
フラップ「ファデリー閣下、エレイン殿は態度はともかく、おぞましき悪霊を一刀両断、アルミナ様のお命をお救い下さった方です。実力は折り紙付きかと」
アルミナ「私からもお願いします、兄上」
ファデリー「エレイン。ファミリー・ネームは?」
エレイン「(明るくきっぱり)ないっ! 物心ついた時から天涯孤独だ! あ、今は娘が一人いるがな」
エレイン、ソファの前に出て、アルミナの隣に大股を開いて座る。
エレイン「実を言うと、傭兵がしたいわけじゃないんだ。仕事があればなんでもいい」
ファデリー「ああ、その話は後で聞こう」
エレイン「ありがとう! それから、また別の話なんだが、聞いてもいいかな?」
エルロン「(小声で)態度でけぇよ」
ファデリーは返事はしないが話は聞いている。
エレイン「(前のめりになり)この子に剣を教えたヤツに会いたい」
エルロンとフラップは疑問の表情を浮かべ、顔を見合わせる。
ファデリー「アルミナの剣を見たのか」
エレイン、微笑んでうなずく。少し困った様子のアルミナ。
ファデリー「どういうことだ? エルロン、フラップ。アルミナに剣を握らせたのか?」
エルロン、フラップ、頭を捻る。
エルロン「い、いえ、そんなはずは……」
エレイン「(肩をすくめ)あ、もしかしてこれって、言わないほうがよかった?」
アルミナ「(意を決し)あ、あの、タッカーのお城を荒らす化物がいたから! 私が……!」
全員が一斉にアルミナの顔を見る。
ファデリー「いたから? いたからどうした? (フラップの方を見て)フラップ!(叱責)」
フラップ「いや、ええっと……」
アルミナ「あの、大丈夫なんです! 私、討ち取りましたから!」
エルロン、フラップ、ぎょっとしてアルミナを見る。
エレイン「(取り繕うように)あ、ああ、そうだったな、腕は互角っていうか、がんばってたよ! 大善戦だったと思うよ!」
エルロン、フラップに疑問の顔を向けるが、フラップも首をひねって応える。
アルミナ「(ムッとしながら)私のほうが押してました!」
エレイン「(対抗して)あんたがそう思ってるだけで、向こうは魔法も使ってなかったし、ろくに反撃もしてなかっただろう?」
エルロン「(フラップに小声で)何があったんだ?」
フラップ「(エルロンに小声で)俺に聞くなよ」
アルミナ、何か言おうとするが飲み込んで。
アルミナ「そうなんですか……?」
✕ ✕ ✕
時間経過。テーブルの上にコーヒーカップを戻すファデリー。エルロン、フラップ、エレイン、アルミナは退場して、ファデリーとアニエスが残っている。
ファデリー「しばらくアルミナを頼む」
アニエス「私が? エルロンフラップと共に姫の護衛にあたるということですか?」
ファデリー「いや、あのふたりはアルミナから離す。城の警備にでも当たらせておけ」
アニエス「そうですか……」
ファデリー「アルミナは伯父の家に預ける。その準備をさせてくれ」
アニエス「わかりました。だけどどうして……?」
ファデリー「オルタネイトといっしょでは縁談もままならんからな」
アニエス「縁談?」
ファデリー「おかしいか? こんな時に縁談の話など。だが、あれには人並み外れた才覚がある。この国から出してやりたい」
アニエス「いや、そうじゃなくって、アルミナ姫、好きな人いますよ?」
しばらく間を置いて。
ファデリー「えっ?」
61 同、渡り廊下
廊下を早足で歩くアニエス。それに追いすがるエルロンとフラップ。
アニエス「決定だそうです。私には覆せません」
エルロン「取り入ってくれたっていいだろう? 俺たちだってがんばってんだから」
フラップ「俺たち以外に、だれがアルミナ姫を守れるっていうんだよ!」
アニエス「大丈夫です。アルミナ姫の護衛は私が仰せつかりました」
フラップ「何の冗談だよ、それ」
アニエス「もう決まったことです。おふたりは城の警備を」
エルロン「いやだからさあ、俺たちの代わりはお前じゃ無理だよ、腕が違いすぎるって!」
アニエス、立ち止まり、聞こえるように大きなため息、帽子をとって髪をおろし、表情も一転し女海賊の顔になる。
アニエス「(エルロンを睨みつけ)バカにすんじゃねえよ。こちとらオルタネイトの指揮をまかされてんだ。文句があるならファデリーに直接かけあいな!」
エルロン「あ、あのう、はい……」
フラップ「(一人ごとのように)て言うか、こんなんで解任されるの、失脚したみたいでヤなんだよ」
アニエス「『みたい』じゃねえんだよ。失脚だよ失脚! 更迭されんだよ!」
フラップ「(うずくまって耳をふさいで)キャー! 言わないで! それだけは言わないで!」
62 同、アルミナの部屋
ベッドに寝てるアルミナ。エレインは立って窓の外を見ている。
アルミナ「気にかけて頂いてありがとうございます」
エレイン「ああ、起きてたんだ」
アルミナ「傭兵の件、私の方からもう一度兄上に掛け合いますので、もう少しお待ちいただけたらと……」
エレイン「気にしなくていいよ。こうやって既成事実を作って、勝手に入り込んでいくからさ」
アルミナ「勝手に……?」
エレイン「普通はこんな見ず知らずの人間を、お姫様とふたりきりにはしない。雑な組織だよ」
アルミナ「やっぱりそう見えますか……?」
エレイン「どうせならずモンの成り上がりだろう? そのくらい、見てわかるよ」
アルミナ「お恥ずかしい限りです」
エレイン「いや、付き合いやすくていい。あんたの腕もすごかったよ」
アルミナ「めっそうもない。マグレフ様からは、まだまだ護身術レベルだって言われます」
エレイン「マグレフ様と言うのは……?」
アルミナ「あ、はい。私に剣を教えてくれた方……悲しい目をした人です」
エレイン「悲しい目?」
アルミナ「国に子どもを残して、騎士団に志願して来たとかで……」
エレイン「(驚いて)そうだ、子ども!」
アルミナ「ひどいですよねえ、子ども、置き去りだなんて……」
エレイン「(苦笑いしながら)そ、そうだよねー」
63 マリーナル(異界)のアルプスの山的な場所
高い山の上の草原。野生の大きな角のあるヤギの群れ。茂みからそれを見ているアリスロッテと白黒のヤギ2匹。
アリスロッテ「どれにする?」
白黒のヤギ2匹の視線が同時に1匹のヤギへと動く。
見つめられたヤギへズームアップ、キリッと柳楽優弥の目をしたイケメンヤギの姿がある。
アリスロッテ「いい選択だと思う、あとは?」
白黒ヤギの視線が、別方向の別のヤギへと向けられる。
見つめられたヤギへズームアップ。クールな神木隆之介の目をしたイケメンヤギの姿がある。
アリスロッテ「こっちもなかなか。わかった、行きましょう!」
鼻息を荒くする白黒ヤギ。
✕ ✕ ✕
目をつけた2匹のヤギは手脚を縛られ棒に逆さに釣られ、棒はアリスロッテたちに担がれてる(白黒ヤギは羊のショーンのように2本足で立って棒をかついでる)。
セミシルエットで、山を降りている。
64 マリーナル(異界)エレインの家の前(夜)
2匹のイケメンヤギは白ヤギ黒ヤギと交尾している。白ヤギ黒ヤギは恍惚の表情。アリスロッテは本を読んでる。
65 フローレンス城 アルミナの部屋
ベッドで眠るアルミナ、その脇の椅子で本を読んでいるエレイン。
SE:あわただしい足音
エレインが顔を上げる。
66 同、廊下
オルタネイトがエルロンフラップと話をしている。
フラップ「総数は?」
オルタネイト「20か30かと」
エルロン「そんな数で城攻め? 敵はバカなのか?」
オルタネイト「数は確かにそうですが、やっかいなのが二人混じっています」
フラップ「やっかいなの?」
オルタネイト「一人は、ソードマスター・マリウス」
67 同、正門外
マリウスとハインライン兵5人がいる。足元にはオルタネイト3人が転がっている。
マリウス(17)「ボクが撹乱します。あなた達は人質を探してください」
ハインライン兵「ハッ!」
四方に散るハインライン兵。
ハインライン兵の姿が消えたあと、5人のオルタネイトが飛び出してきて、マリウスを取り囲む。
オルタネイト「何をしに来た!」
次々と刀を抜くオルタネイト。マリウスは(哭きの竜のように)手を目の下あたりにかざして、いけすかないポーズで立っている。
マリウス「5人でボクの相手ができますか?」
マリウス、ゆっくりと手を動かす。
光の弾が5つ、順に浮かび上がる。
マリウス「ディプロイ」
光の弾は、長く伸びて5本の光の剣になる。
オルタネイトは身を固くし、マリウスはそのままポーズを決めている。
フラップ(オフ)「(次のカットからのずりあげ)マリウス・クライス? 若造だろう?」
68 同、廊下
シーン66の最終カットに戻す。
オルタネイト「ゆくゆくは評議会議長になると言われる男です。見くびってはいけません」
エルロン「もう一人は?」
オルタネイト「もう一人は賞金稼ぎ……」
エルロン「賞金稼ぎ……?」
オルタネイト「ウケ狙いの、ガルシア」
フラップ「ウケ狙いの」
69 同、正門外
マリウスがディプロイのポーズを決めてるところにガルシア登場。
ガルシア(21)「幹部候補生の坊やは相変わらずまどろっこしいことをやってるようじゃねえか」
オルタネイト「お前は……受け狙いのガルシア」
ガルシア「ああ? 誰が受け狙いだって!?」
ガルシア、歩いてきて、空き缶を踏んでバランスを崩す。
ガルシア「ぬわっ!」
続いてクワを踏み、クワの柄が立ち上がって顔面に直撃。
ガルシア「ぶぺっ!」
よろけて猫の尻尾を踏んで、驚いた猫が走り出し、植木台に突進、植木台は倒れ、植木鉢がたくさんガルシアめがけて転がってくる。それをひょいひょいと避けるガルシア。
ガルシア「ほっ! ほっ! うりゃっ!」
イリーガルに跳ね上がった植木鉢をキックして躱す。
ガルシア「とうっ!」
その植木鉢が高い足場の上に置かれた樽に激突、樽はぐらぐらして落下、ガルシアにすっぽりとはまる。
ガルシア「ふんがぼっ!」
ガルシア、後ろ向きにこけて逆立ち状態になるが、そのまま勢いをつけて一回転して起き上がる
ガルシア「ぬおおおっ!」
が、バナナの皮を踏み、
ガルシア「ほひょう!」
横向きに転んで、そのままゴロゴロところがって退場する。
ガルシア「ひょぉぉぉぉーっ!」
ガルシアが転がって行った方をながめるオルタネイト5人。
カッコつけて立ってるマリウス。
カメラは引いて全体を見せるが、ガルシアが立ってたあたりに樽が落ちてきそうな構造物はない。
ロングショットの画面に縦書きで文字が表示される。
T:樽は
どこから落ちて
きたんだろう
70 同、廊下
手袋を締め直すフラップ。エルロンは両手のひらで髪の毛を抑えるような(ヤンキーっぽい)仕草。
エルロン「じゃあ、俺がマリウスを抑える。(フラップに)おまえにはウケ狙いを任せる」
フラップ「いいとこ取りかよ!」
ファデリー(オフ)「マリウスは二人で行け」
背後にファデリーの姿を見留めるエルロンとフラップ。その後ろにはアニエスもついている。
ファデリー「ガルシアは俺が抑える。アニエス、アルミナを頼む」
アニエス「姫を?」
ファデリー「街道に別働隊がいる。裏道からここを出て合流しろ」
オルタネイト「敵の狙いは人質奪還だと思われますが、そちらはいかがいたしましょう」
ファデリー「人質はいい、奪わせておけ」
オルタネイト「よろしいので?」
ファデリー「ああ、もう役目は終わった」
71 同、拷問部屋
ハインラインが一人囚えられている。
3人のハインラインが入ってきて、拘束されたハインラインに駆け寄る。
ハインライン(救助A)「待ってろ、すぐ開放してやる」
ハインライン(拘束)「すまない。ここで果てるのかと思った」
ハインライン(救助A)「あまり期待するな。果てる場所が変わるだけだ」
ハインライン(拘束)「俺は何もしゃべってない! 天空のエロールに誓って!」
別のハインライン(救助B)、部屋を見回す。拷問具の数々が目に留まる。
アイアンメイデン。
T:アイアンメイデン
ギロチン振り子。
T:ギロチン振り子
異端者のフォークと拷問椅子。
T:異端者のフォークと拷問椅子
三角木馬。
T:三角木馬
ハインライン(救助B)「これ絶対喋るだろ」
72 同、正門前
オルタネイトの死体が山と築かれている。
樽に座りパックの豆乳を飲んでるマリウス。
エルロン(オフ)「優雅に豆乳飲んでんじゃねえぞ!」
マリウス、声を聞いて振り返り、エルロン、フラップの姿を見留める。
フラップ「(首をぽきぽきしつつ)準備運動は済んでんだろうな」
マリウス、ゆっくりと立ち上がり、目の下に手を構える。
マリウス「仕方がありませんね」
マリウス、手をゆっくりと移動させる。その軌跡に4つの光の球が発生する。
フラップ「隙あり!」
フラップ、剣を振り上げ、マリウスに襲いかかる。
マリウス「ねーよ!」
マリウス、左手でカウンターパンチ。
フラップ、顔面を正面から殴られ体を浮かせてる(昔のボクシング漫画にありがちな構図)。
マリウス「ディプロイ!」
マリウスのまわりの光の球4つが剣に変わる。
4本の剣がエルロンに襲いかかる。
エルロンは剣を抜き、4本の剣の攻撃を次々に受ける。
マリウス、それを見て口角を上げる。
マリウス「アハン」
マリウス、手を下からくいっと上に上げる。
剣の1本がくるっと縦後ろ向きに回って、下からエルロンを切り上げる。切っ先がエルロンの服を裂いて、剣が触れたところは炎が出て焦げる。
エルロン「熱っ! なんだこれっ!」
他の剣も不規則な動きで攻撃をかけてくる。炎は熱で周囲の空気を揺らめかせる。
必死に剣で受けてかわすエルロン。
エルロン「待て! 剣の動きじゃないこれ! ずるい!」
マリウス、片手で光の剣を操作し、左手で豆乳を飲んでる。
エルロン「豆乳飲んでんじゃねえぞ、ゴルァ!」
マリウスの背後、フラップが ゆっくりと近づいてきて、マリウスの肩に後ろから剣をあてる。
フラップ「そこまでだ、マリウス、剣を引いてもらおう」
マリウス「(たじろぎもせず)そこまで?」
フラップ「ああ、引かないと……」
フラップの首筋に1本の剣が突きつけられている。その剣に気がつくフラップ。首に1本、手首のとこに1本、股間に1本が見留められる。
マリウス「引かないと、何? 最後まで言ってもらわないとわかりませんね」
手首に剣が触れると、肌が焼けて煙をあげる。
フラップ「くっ」
マリウス、手を少し上げる。
フラップの股間の剣が少し上昇する。剣はズボンに触れ、ズボンは剣の熱で焦げて煙を出す。
フラップ「や、やめろっ!」
つまさきだちするフラップ。
フラップ「(ぷるぷる震えながら)ダメ、やめて? おねがい、やめて?」
73 同、裏門前
ファデリーが立っている。
ガルシアが歩み寄ってくる。
ガルシア「(歩きながら)ほう……。こいつは大物の登場だな……7歳にしてヴァラー騎士団精鋭と互角の腕を誇ったというあんたの腕……拝める日が来るとはな」
たじろぎもしないファデリー。
ガルシア、ゆうゆうと近づいてくるが、ファデリーの手前にある空き缶で転ぶ。
ガルシア「ぬわっ!」
カメラはファデリーの顔をとらえる。
無表情なファデリー。
画面外で前回と同様のアクシデントが連続しているのが、ガルシアの声とSE、画面のシェイクでわかる。
ガルシア(オフ)「ぶぺっ! ほっ! ほっ! うりゃっ! とうっ! ふんがぼっ! ぬおおおっ! ほひょう!」
カメラはファデリーの背後へ、ファデリーの背中なめ、樽に入って転がっていくガルシア。
ガルシア「ひょぉぉぉぉーっ!」
無表情なファデリー。
74 フローレンス城 アルミナの部屋
ベッドの横に車椅子が置かれている。
ベッドに座っているアルミナ。
エレインは部屋の隅にいて、オルタネイト一名が車椅子のそばにいる。
アニエスはアルミナの手を取る。
アルミナ「私だけまた、ほかの場所へ行くんですか?」
アニエス「ええ、ここは危険です。安全な場所へ移動します」
アルミナ「(残念そうに)お城の名前、私がつけたんです。なのに私はここにはいれないんですね」
オルタネイトが入ってくる。
オルタネイト「参謀長殿!」
アニエス「部屋にはいる時はまずノックだ!」
オルタネイト「す、すみません。(気を取り直し)街道のハインライン、増員されました……裏道の方も塞がれた可能性が……」
アルミナ「(うれしそうに)裏道も? それじゃあ、今は移動できませんね!」
アニエス「姫、喜んでる場合ではありません。(報告者の方を見て)数は?」
オルタネイト「100はくだらぬかと、それに奥院の幹部らしき姿があります」
アニエス「奥院の幹部か……こちらを攻める気か?」
オルタネイト「わかりません……。もともと歪みが発生していた広場に設営された陣のようですが、まさかあの数で歪みを視察に来たとも思えません」
エレイン(M)「歪みがあるのか……」
エレイン「敵ってのは何者なんだ?」
アニエス「カウンシル……ハインライン評議会っていうド腐れた連中だ」
エレイン「評議会ね……そいつらを叩きのめしたら、私の株も上がるかい?」
アニエス「いいねぇ、あんた。その言葉だけで合格だよ」
75 街道のハインライン駐屯所 指揮エリア
街道の途中、まばらな林の中。120人ほどの軍が駐留する簡単な拠点がある。馬が停められ、テントが何張りかあり、荷馬車、雑多に置かれた木箱、テーブル、武器等が置かれている。
その中にベルカミーナが立って、指揮棒を持ち、手でぺしぺししている。
ベルカミーナ(33)「歪みはどうなった?」
ハインライン(参謀)「ハッ! 歪みの方は安定しております! それよりもベルカミーナ様、こちらを!」
ベルカミーナのもとに、人質になっていたハインラインが連れてこられる。
ベルカミーナ「ほう、これがオルタネイトに引っ捕まって人質にされていたマヌケか?」
ハインライン(人質)「め、めんぼくありません!」
ベルカミーナ「チッ……、(カメラ目線で)オルタネイトが人質を取って、我らが影でしてきた悪事の数々、空間の歪みを作り出したり、それをオルタネイトのせいにしてきたこと、それらすべてを吐かせたという噂は、事実だったということだな!」
ハインライン(参謀)「素晴らしいセリフです、ベルカミーナ様。必要な情報を完全網羅しておりました!」
背後で爆発が起きる。
SE:どごーん!
爆炎がもうもうとあがる。
ベルカミーナ「何が起きた?」
ハインラインA「わかりません!」
ハインラインB(オフ)「敵襲だーっ!」
ハインラインC(オフ)「第二小隊がやられた!」
ハインラインD(オフ)「ベルカミーナ様を!」
ベルカミーナ「正面から派手に乗り込んでくるなど、敵はバカなのか?」
76 街道のハインライン駐屯所 はずれ
駐屯所内、指揮エリアから少し離れた場所。木陰に潜んでいるエレイン。
駐屯所中央付近に火の手が見える。あわただしく駆け回る人々の姿がある。
エレイン「まじぃ、なんかに引火したなありゃ」
エレイン、顔を出して覗くと、近くで警戒しているハインラインの姿がある。
エレイン「チッ」
エレイン、ハインラインの斜め上を指差すと、そこに火球が発生する。
ハインラインがそれに気がつく。
エレインは指を動かす。
火球がハインラインに襲いかかる。
別のハインラインが駆け寄ってきて、火球の発射点へ魔法弾を打ち込む。
それを確認して、エレイン、反対側へ駆け去る。
77 街道のハインライン駐屯所 指揮エリア
近くで爆発音が轟く。ハインラインAとベルカミーナが戦況を伺っている。
ハインラインEが来て、ベルカミーナに駆け寄る。
ハインラインE「ベルカミーナ様」
ベルカミーナ、振り返る。
78 街道のハインライン駐屯所 裂け目エリア
空間の裂け目がある。
びりびりとした地響き。裂け目の向こうは謎の空間。
ベルカミーナとハインラインAがハインラインEに案内されてくる。
ハインラインE「こちらです」
ベルカミーナ「こ、これは、高レベルの魔法使いなら自在に行き来ができるが、一般人は特殊なアイテムを持っていないと利用できない、異界へと通じる空間の裂け目?」
ハインラインE「さようでございます!」
ベルカミーナ「つい最近まで空間の歪みでしかなかったのに、いつのまにか裂け目になってる! ついに歪みを裂け目に成長させる技術が完成したというのだな! すなわち……約束の地、マリーナルに攻め入ることも出来る!」
ハインラインA「素晴らしいセリフです、ベルカミーナ様」
ハインラインE「この裂け目はまだ安定しておりませんが、ヴァポラム密林には、もっと規模の大きい歪があると聞いています。それを利用すれば、必ずや」
79 フローレンス城 アルミナの部屋
アルミナの部屋、アニエスたちの姿はなく、扉は開け放たれている。
窓の外を見ているアルミナ。
アルミナが見ている先の空間は揺らめいているように見える。
SE:ドアをノックする音。
アルミナ、振り向き、入り口にアニエスの姿を見留める。
アルミナ「どうぞ」
アニエス、部屋に入り、ドアを閉じる。
アニエス「出発を遅らせます。何者かが街道のハインラインと交戦中で……」
アルミナ「何者かって、もしかしてエレイン……」
アニエス「いえ、まだはっきりそうだとは……」
アニエス、窓の外の空間のゆらめきに気がつく。
アニエス「あれは……?」
アルミナ「わかりません。私も初めて見ます」
アニエス(M)「もしかしてあれが、空間の裂け目?」
80 街道のハインライン駐屯所
炎に包まれ、混乱した駐屯地。
トイレに火球が直撃、中に隠れていたハインラインが這い出てくる。
空中には次々と火球が発生し、それがハインライン兵めがけて飛ぶ。
ハインラインは火球に向かって魔法弾を浴びせて抵抗を試みる。が、魔法弾はすり抜け、火球の直撃を食らう。
ハインラインはどんどん火球に撃たれて倒れていく。
ベルカミーナ「あの火球、ブラスト級であろう? なぜあそこまでダメージを受ける!」
ハインライン「わ、わかりません!」
ベルカミーナの背後に火球が発生する。
ハインライン「ベルカミーナ様!」
ベルカミーナ、手のひらを横に広げ、マナウォールを発生させる。
火球はマナウォールを貫通してベルカミーナに直撃。
ベルカミーナ、吹き飛ばされ、倒れる。
ベルカミーナ「げふっ! (顔を上げて)貫通?」
倒れたまま警戒するベルカミーナ。
低い位置、馬車の底面の隙間からエレインの足が見える。
ベルカミーナ「(足見留め)あれは?」
足は右へ左へと歩きまわっている。
ベルカミーナ、足に氷弾を飛ばす。
氷弾は足を氷づけにし、転ばせる。
転んだのはエレイン。
ベルカミーナ、馬車の底面の隙間越しにエレインの顔を見る。
エレイン、ベルカミーナに気付き、不敵に笑い、火球で氷を割り、走り去る。
ベルカミーナ「待てっ!」
ベルカミーナ、立ち上がって追う。
ハインラインがその場に残される。
ハインライン「ベルカミーナ様!」
81 フローレンス城 アルミナの部屋
アニエスとアルミナが窓から中庭を見ていると、エルロン、フラップが走ってくる。
空から20本以上の光の剣が降り注ぐが、エルロン、フラップかわし、地面に次々突き刺さる。
エルロン、フラップ逃げる。
マリウス追ってきて、光の剣30本を発生させる。
アルミナ「あれは?」
アニエス「おそらく、ソードマスター・マリウスかと。あんなに幼いのか……」
SE:ドアが開く音
マグレフ(オフ)「俺のボトルを知らんか?」
マグレフ、ズカズカと部屋に入ってくる。
アルミナ「(見留め)マグレフ様……(憧れ・緊張)」
アニエス「(マグレフに)ファデリー閣下のお部屋では?」
マグレフ(41)「いいや、なかった。あの男、隠しやがったな」
マグレフは、カップボード、クローゼットと開け、中をのぞき、テーブルの上のボトルを取り、ラベルを見る。
アニエス「マグレフ様」
マグレフ「なんだ?」
マグレフ、アニエスの方を見るとアルミナも目に入る。
アルミナ、うれしそうに微笑む。
アルミナ「おかえりなさい」
マグレフ「(ボトルを開けながら)ああ、ただいま」
マグレフ、ボトルを口にする。
マグレフ「(アルミナに)いつからこっちにいる?」
アルミナ「つい先日より」
マグレフ「クルーゼンブルクはとうとう沼に沈んだか?」
アルミナ「まだ東の離れの井戸は生きております。だけど、私の病が悪化して、それで」
マグレフ「それで空気の良いこちらへ来たというのか? ハッ。エルロン、フラップめ。こっちに移る機会を探していたからな。療養は口実だ」
アルミナ「口実……」
マグレフ「おまえはさっさと病を直せ。おまえのほうが教え甲斐がある」
アルミナ「(照れながら)は、はい」
アニエス「(窓の外を見ながら)エルロン、フラップはどうします?」
マグレフ、窓の外を見る。
エルロンとフラップがマリウスに追われて逃げ回っている。
地面から剣が無数に突き出し、エルロン、フラップ必死によける。
マグレフ「マリウスか。派手な技を使うようになったな。バカ弟子二人じゃ物足りんだろう」
マグレフ、ボトルから一口飲んで、アニエスにボトルを渡す。
アニエス「では、マグレフ様がお相手を?」
アニエス、ボトルを口にし、飲んで、アルミナにボトルを渡す。
アルミナ、わくわくしながらボトルを受け取る。
マグレフ「(窓の外の様子を見たまま、ほくそ笑み)その暇はなかろう。やつらはもう撤退する」
アルミナ「(マグレフを見ながら)すごい。わかるんだ」
マグレフ「(アニエスを見て)ところで街道の部隊を叩いてるのは誰だ?」
セリフにかぶせて、後ろでボトルを飲んでるアルミナ。
アルミナ(M)「ジュースだこれ(レイティング対策)」
アニエス「姿は確認しておりませんがおそらく……」
マグレフ「背の高いメイド服の女だ。心当たりはあるか?」
アルミナ「(手に持ってたボトルをおろし)エレイン!」
82 燃え盛る森
エレインを追い詰めたベルカミーナ。
ベルカミーナ「どう? 気持ちいい?」
エレイン「気持ちいいって、何が?」
ベルカミーナ「100人の部隊を、一人で全滅させたのよ? 気持ちよかったでしょう?」
エレイン(M)「いや、だから何が言いたいの?」
ベルカミーナ「指で弾いた程度の魔法で、鍛え上げた兵士が吹き飛ぶのよ? 私にもやってみれば?」
エレイン(M)「だからなんなのよそれー」
ベルカミーナ「異界マリーナル。ピンクのカバが住むところ……」
エレイン(M)「住んでないってー」
ベルカミーナ「そこには一切の防御ができない逆位相魔法の使い手がいると聞いたことがあるわ。そう、ちょうどあなたみたいに!」
エレイン「まあ、そのあたりは正解」
ベルカミーナ「マリーナルはエロールの裁きにより、この地が滅びたあとの安住の地。そう聞いていたけど、間違いだったかしら?」
エレイン「は、はあ……(仕方なく相槌)」
ベルカミーナ「決めたわ! マリーナルの民はすべて始末する!」
エレイン「始末ぅ?」
ベルカミーナ「まずはあなたからよ!」
ベルカミーナ、巨大な魔法を詠唱なしで放つ。
エレイン「うおおぉぉっ!」
エレイン、とっさに身を伏せ、カウンターで魔法を放つ。
エレインの魔法は、ベルカミーナの魔法を貫通してベルカミーナを襲う。
悲鳴をあげて倒れるベルカミーナ。
ベルカミーナ「きゃあああああっ!」
エレイン、起き上がる。
エレイン「(駆け寄りながら)大丈夫か?」
ベルカミーナ、倒れたまま笑ってる。
ベルカミーナ「クックックッ……。屈辱は、嫌いじゃないわ。むしろこれが、私の糧。そうでしょう? 心の傷がすべて覚えているわ!」
エレイン(M)「何このめんどくさい人……」
ベルカミーナ、手も使わず重力無視して立ち上がる。
ベルカミーナ「どうしたの? もう終わり? それとも哀れみ? 違うわ。楽しいんでしょう? 私をいたぶりたいんでしょう? やっていいのよ?」
ベルカミーナ、蛇のような目で笑みを浮かべてエレインに迫る。
エレイン(M)「たしゅけてー」
ベルカミーナ「見て、血の涙(血の涙が流れる)」
エレイン(M)「意味がわからないー」
ベルカミーナ「覚えておくがいいわ! 私の兵100人を奪ったものが、どんな目に遭うか! 覚えておくがいいわ!(血の涙を流しながら)」
エレイン(M)「こわいよー。このひとこわいよー」
83 フローレンス城 中庭
曇天、雲が足早に流れる。
T:「第四話 最後のひととき」
SE:風の音と遠くに雷鳴(環境音)
椅子が2つならべられ、アルミナとエレインが座っている。手前にイーゼルが立っていて、アルミナとエレインの肖像画を書いている画家の姿が見える。
アルミナとエレインは風の音があるので、大声で話してる。
アルミナ「私、本当はここに嫁ぐはずだったんです。まだ10代でした。でも、婚姻の儀のほんの数日前? 民衆が蜂起して、領主様も、その父君も断首されて……。私は修道院にいて……、そこはなんていうか、民衆側の? ちっちゃなグループの運動の拠点になってて、それで私、彼らのリーダーの計らいで被害者だって扱いにしてもらえて、普通に開放されて……。それでこのお城も、長いことどこかの商人のものになってて、それを兄が……、ヴァラー騎士団が交渉して? 安く買い上げたんです。あっ、ヴァラー騎士団っていうか、いまの暗黒騎士団、オルタネイト?」
黙って聞いているエレイン。
アルミナ「カッコ悪いですよね、オルタネイトって名前」
マグレフ、椅子を持って歩いてくる(手前から奥へ)。
マグレフ「(エレインに)フレア・シェルを持っているのか?」
風の音で聞き取れないエレイン。
エレイン「なに?」
マグレフ、エレインの隣に椅子を置いて座る。
手前に座ってる画家は気にせず絵を描き続ける。
マグレフ「フレア・シェル、持ってるのか?」
エレイン「ああ、やっと使いこなせるようになった」
マグレフ「騎士団を破滅に追い込んだ石だ。それに俺の……俺の村も、そいつのせいで……」
エレイン「(マグレフの顔を仰いで)えっ?」
マグレフ「ファデリーはその石のことを知っているのか?」
エレイン、首を振る。
マグレフ「そうか」
エレイン「私、住む場所を探してるんだ。娘と二人で」
マグレフ「ここはやめたほうがいい」
エレイン「どうして? 戦争が起きているから?」
マグレフ「騎士団がその石を差し出せと言ってきたら、断れるか?」
エレイン「もちろん!」
マグレフ「ならばおまえたちの住む家もナシだ」
エレイン「住む家と、この石と、 交換か?」
マグレフ「住む家と、騎士団の破滅、の交換だ。悪いことは言わん。マリーナルへ帰れ」
エレイン「(少し考えて)私、みんなを救えると思う」
マグレフ「俺も……、俺もそう思ってもう10年以上アイツの下にいる」
エレイン、所在なさ気に足を組み替る。エレイン、遠くを眺め、席を立つ。
✕ ✕ ✕
少しして、エレイン、棒を2本持って戻ってくる。1本をマグレフの元に投げる。
マグレフ、顔を上げてエレインを見る。
✕ ✕ ✕
時間はしょって、エレインとマグレフ、棒をかまえて模擬試合のように対峙する。
1戦目、両者踏み込むが、エレインは体をひねりながら更に間合いを詰め、至近距離から左手で魔法を打ち込もうとするが、魔法を躱され、その左手をマグレフにひねりあげられる。
✕ ✕ ✕
2戦目、エレインは体から棒を放して構える。
エレイン、左手で魔法を放って、一気に距離を詰める。
足元、地面すれすれをマグレフの棒が払うが、エレイン、体をひねりながらジャンプ。宙空から3つの火球を浴びせる。
マグレフ全部よける。が、背後に回りこんだエレインに、棒で突かれる。
✕ ✕ ✕
3戦目の構え。
84 森の泉の裂け目
森の中に泉があり、そのそばに裂け目がある。アニエスとマグレフとエレイン、その裂け目を眺めている 。
アニエス「ずいぶん増えましたね」
マグレフ「ああ、この1週間で20は消したはずだ……」
アニエス「(ノートを手に持ち)12です」
マグレフ「12」
エレイン「やっぱり私、こっちに残るよ」
マグレフ「ダメだ。娘を残してきてるんだろう? これ以上つきあってもらうわけにはいかん。ここを通って帰れ」
エレイン「あんただって、子どもを捨ててきたんだろう?」
マグレフ「俺は帰るとは約束してない。それに、ここだけの話だが、おまえが帰っても東の方に歪みを消せる一族がいる」
アニエス「ここだけの話?」
マグレフ「騎士団が知ると、奪いに行くだろう?」
エレイン「それじゃまるで騎士団は悪党だ」
マグレフ「ああ、悪党だ。だがいつか、俺が全部かぶって、あいつにはヴァラー騎士団を再建させる」
エレイン「俺?」
マグレフ「そう、俺」
エレイン「『俺たち』じゃないのかい?」
マグレフ、にっこりと笑う。
マグレフ「ああ、好きにしろ。だけどもし戻ってくる気なら、これだけは守れ。家族は巻き込むな」
エレイン、微笑んで、軽くうなずく。
アニエス、四角い包みをエレインに渡す。
アニエス「これを」
エレイン「持っていっていいのか?」
アニエス「アルミナ姫が、どうしてもと」
エレイン、包みを受け取る。
エレイン「ありがとう。よろしく伝えておいてくれ」
マグレフ「それじゃあ」
エレイン「それじゃ」
アニエス「異界マリーナル、ピンクのカバが住むところ……か。私もいつか行ってみたいな」
エレイン「(苦笑いしながら)住んでないけどね」
85 マリーナル(異界)の深い森
森に空間の歪みが浮いている。
ピンクのカバが闊歩してる。
空間の歪みが広がり、振動と爆音を伴って裂け目となる。
裂け目からエレインが現れる。
エレイン「(ピンクのカバ見留め)あ、いるんだ」
86 マリーナル(異界)のエレインの家の前
エレインの家の前、白ヤギ黒ヤギとイケメンヤギ2匹がいる。
エレインが歩いてきて、ヤギたちの視界に入る。
白ヤギがエレインの姿を見て鳴く。
白ヤギ「めへへー」
87 同、家の中
机に向かって、帳簿をつけているアリスロッテ。
SE:外から聞こえるヤギの声「めへへー」
後ろで扉が開く。
SE:扉が開く音
アリスロッテ「(ペンをインク壺につけ)めへへー。ごはんはまだだよー」
エレイン(オフ)「ただいま」
アリスロッテは目を見開く。
アリスロッテ(M)「お母さん!」
アリスロッテの顔は自然と笑顔になるけど、ハッとして、ムッとした顔に変える。
エレイン「ただいま、アリスロッテ。ヤギ、増えたのね」
振り向くアリスロッテ
アリスロッテ「いままでどこに行ってたの! 1週間で帰るって言ったのに!」
エレイン、壁に絵(B2横くらいの大きさ)をかける。
絵はフローレンス城中庭で、アルミナと二人で椅子に座っているもの。
エレイン「ごめんね、ちょっとはずせない用事ができちゃって……」
アリスロッテ、あらためてエレインの姿を上から下まで眺め、左手の包帯に目がとまる。
エレイン「(視線に気がついて)ああ、これ? これはちょっとしくじっちゃったの」
アリスロッテ「お母さんが……?」
エレイン「それよりも、なにか食べましょう。村でいろいろ買ってきたの」
アリスロッテ「待って!」
アリスロッテ、走って納戸へ。
✕ ✕ ✕
時間経過を示す演出(フェード等)を入れて、テーブルの上に置かれた布の覆いをかけたチーズ。
アリスロッテ、覆いを取って、エレインの顔を見上げる。
エレイン「チーズ? これ、アリスロッテが作ったの?」
アリスロッテ「そう! 米のとぎ汁で乳酸菌作って、あとアザミの花の雄しべを使うの!」
エレイン「よし! それじゃあそれでサンドイッチを作ろう!」
アリスロッテ、パッと笑顔になる。
✕ ✕ ✕
家の外、ゲロを吐くエレイン。
その様子をサンドイッチを食べながら見ているアリスロッテ。
✕ ✕ ✕
カメラは家の中に戻って、夕方。雨の音が屋根を叩く。窓を見ると雨。
アリスロッテとエレインはバケツやコップを持って、雨漏りのしずくを受けている。
アリスロッテ「私ね、お母さんがいるこの家、好きかもしれない」
エレイン「(少し黙ったあと)アリスロッテ……」
アリスロッテ「(何か期待して)なあに?」
エレイン「なんでもない(悲しそうに視線を外す)」
アリスロッテ、不安げな表情になる。
しずくがエレインの鐘をかすめて、板床に落ちる。
88 同、家の前(朝)
屋根の上で雨漏りの修理をしているエレイン。
✕ ✕ ✕
時間経過。(屋根を降り)椅子の修理をしているエレイン。
アリスロッテ、木材を持ってきてエレインの横に置いて、腕まくりする。
89 マリーナル(異界)の山道
アリスロッテとエレイン、何か話しながら二人で歩いている。
(このシーン以降、エレインの胸の薔薇のブローチはなし、アリスロッテの胸にブローチをつける)
90 マリーナル(異界)の峠の広場
空間の歪みがある。
エレイン、フレア・シェルをかざす。
わくわくして見てるアリスロッテ。
フレア・シェルは歪みからパワーを吸い出し、歪みは小さくなっていく。
アリスロッテの表情はみるみる暗くなる。
最後の光の粒がフレア・シェルに吸い込まれると、アリスロッテ、諦めたように微笑み、エレインの顔を見る。
エレインはフレア・シェルを握り、何かに思いを馳せている。
91 マリーナル(異界)のエレインの家(夜)
カバンに荷物を詰めるエレイン。
柱に寄り添うようにして、寂しげにそれを見てるアリスロッテ。
アリスロッテ「今度はいつ帰ってくるの?」
エレイン「いつか……いつかきっと帰ってくる」
アリスロッテ「私は行けないの?」
エレイン「悪い連中をやっつけに行くんだ。アリスロッテはお留守番」
アリスロッテ「私もお母さんと悪い連中やっつけたい」
エレイン「まだ無理だよ」
アリスロッテ「ついて行くもん」
エレイン「きちゃダメだって」
アリスロッテ「だって私……お母さんの相棒になるんだもん……」
✕ ✕ ✕
夜中、ソファで横になって寝ているエレイン、目をさます。
アリスロッテの部屋の灯りがついてる。
✕ ✕ ✕
翌朝、アリスロッテの部屋を覗いてみるエレイン。アリスロッテ用の荷物がまとめられてるのを見つける。
92 同、家の前(朝)
棒を握って立ってるアリスロッテ。棒を持って立つエレインと対峙している。
アリスロッテ「(不安げに)何?」
エレイン「私に勝ったら連れてってあげる」
アリスロッテの顔が明るくなる。棒を握りしめ、片手に光球を発生させるアリスロッテ、ニヤリと笑ったアリスロッテの足元に火球が着弾。アリスロッテは前のめりに倒れる。
アリスロッテ「ぶっ!」
アリスロッテ、顔を上げる。
エレイン(オフ)「アリスロッテ、上」
アリスロッテ、上のほうをふりあおぐと、火球が3つ浮いてる。火球はアリスロッテめがけて降りてくる。アリスロッテ、はっとして横に転がってよける。爆発3連発。
アリスロッテ「すごい」
アリスロッテ飛び起き、振り向きざまにエレインの姿を見留め光球を浴びせるが、エレインは片手ではじき飛ばす。
アリスロッテ「(笑顔を繕いながら)お母さん、やっぱり強いね」
エレイン、表情を変えず近づいてくる。アリスロッテの笑顔が消え、恐怖に変わる。
エレイン「それでどうやって生き延びるつもり?」
エレインの背後に火球が3つ浮いてる。アリスロッテ、火球見留め、テーブルの後ろに隠れる。
火球が放たれテーブルは粉々に砕けるが、アリスロッテ、寸前に逃げ出す。
おろおろして見つめるヤギたち。
エレイン、樽の後ろに隠れるアリスロッテの前に立ち、左手の包帯を取ってみせる。
エレイン「この傷をつけたの誰だと思う? 女の子よ? あんたには何ができるの?」
走って逃げ出すアリスロッテ。
後ろから火球を浴びせるエレイン。
倒れるアリスロッテ。
エレインはうつ伏せに倒れているアリスロッテに覆いかぶさって、アリスロッテの肩をつかんで仰向けに返す。
エレインは右手を高くあげ、その先には大きな火球が光る。
エレイン「マナウォールは? 直撃喰らいたいの?」
アリスロッテ、涙をこぼしながら、歯を食いしばり、マナウォールを発生させる。
エレイン、そこに火球を食らわせる。巨大な爆発。
93 同、アリスロッテの部屋
ベッドで枕に顔をうずめて泣いてるアリスロッテ。
それを見てる白ヤギ黒ヤギ。
94 同、家の前
エレイン、後ろ姿で片手にマグを持ってうがいし、ぺっと水を吐き出す。
後ろから見ている白ヤギ黒ヤギ、目をキッとさせ、イケメンヤギに何か目で伝える。
イケメンヤギ、うなずいてエレインのほうに歩き、エレインを追い越し、エレインに振り返る。
イケメンヤギ、エレインがぽろぽろと涙をこぼしている姿を見る。
イケメンヤギの目は戸惑いに変わる。
95 同、家の前(雨)
雨が降っている。
96 同、家の中(雨)
屋根に染みる雨のしずく。
雨漏りがしている。
ヤギたちがバケツでそれを受けてる。
97 同、家の前(朝)
ヤギにブラッシングしているエレイン、何かに気がつく。
98 同、家の中
家の中。アリスロッテ、小鍋を火にかけてヤギ乳を温めている。
エレイン(オフ)「ねえアリスロッテ! ちょっと来てみて!」
アリスロッテ、外の方に振り向く。
エレイン(オフ)「黒ヤギちゃんが!」
99 同、家の前(朝)
家の外、黒ヤギちゃんのおなかをさすってるエレイン。中腰で見てるアリスロッテ。
エレイン「おなか、大きくなってるよね?」
アリスロッテ「うん……なってる」
エレイン「仔ヤギ生まれるんじゃない?」
アリスロッテは白ヤギのお腹を覗き込む。
アリスロッテ「白ヤギちゃんもだ!」
エレイン「ほんとだ! 忙しくなるね」
アリスロッテ「ミルクも仔ヤギちゃん優先か……」
エレイン「そうね、私たちは別の食べ物探さないとね」
アリスロッテ「私たち……」
エレイン「あれ? 白ヤギちゃんの子は、多分真っ白なんだよね?」
アリスロッテ「うん」
エレイン「黒ヤギちゃんの子は?」
ラブラブな黒ヤギちゃんとイケメンヤギ。(イケメンヤギは両方とも白)
アリスロッテ「わかんない……でも大丈夫」
エレイン「大丈夫?」
アリスロッテ「私がちゃんと見て、お母さん帰ってきたら教えてあげる」
エレイン「えっ?」
アリスロッテ「(一人ごとのように)別に私、行っちゃダメって言ってないのに、なんでいつまでもうちにいるの? わけわかんない」
エレイン「アリスロッテ……」
100 ソルサリアのコートの村の近くの池
おじいちゃんが浮き輪をはめてプカプカ浮いてる。そこに買い物カゴ(昔ながらの昭和風の網カゴに大根なんか突っ込んだもの)をぶら下げて、コートが通りかる。
コート「あ、おじいちゃん、そこ、ワニいるから気をつけてね」
コート、それだけ言うと去っていく。おじいちゃんはそれを見送る。直後、おじいちゃん、魚釣りの浮きのように下に引っ張られる。2回引っ張られてインターバル、その後の強い引きで完全に水中に没する。
101 村の酒場兼宿屋前
おじいちゃん、紐で縛ったワニを引っ張って帰ってくる。
102 世界の果ての洞窟
世界の果ての洞窟。奥の祭壇の前で、護摩を焚いているカッパ。
マリウス(N)「その頃、カッパは世界の果てで、酒場の客がカッパに見える呪いをかけていました」
カッパ、振り返って目が光る。
103 村の酒場兼宿屋
酒場で話してる客(カッパ)、その話を聞いてるコート。
客1(カッパ)「で、その異界から来た魔女ってのが、次々に空間の歪みってのを作り出したって言うじゃないか」
客2(カッパ)「ああ、怖い世の中になったねえ。オルタネイトっていう暗黒騎士団が呼び出したんだろう?」
客1(カッパ)「ああ、だけど、ハインライン評議会がなんとかしてくれるよ。なんでもその、異界ってとこを制圧して、そこに理想郷を作るって言うじゃねえか」
客2(カッパ)「ああ、それな、俺なんかもう乗り遅れちゃなんねえってんで、全財産の半分は寄付しちまったよ」
客1(カッパ)「マジか?」
コート(M)「カッパに見える……」
客1(カッパ)「(コートに)あ、モロキュウひとつ」
客2(カッパ)「(コートに)黄桜、熱燗で」
104 タッカー城玉座の間
空間の歪みが広がって、激震と爆音を伴って裂け目となり、エレインが現れる。
エレイン「さぶっ!」
105 フリオリの山道
カーテンにくるまって山道を駆け下りるエレイン。
エレイン「家の近くの歪み、1個残しとけばよかったーっ」
エレイン、眼下の道に馬車が走ってるのを見留める。
エレイン「あっ、あの馬車! おーい!(手を振る)」
馬車を御しているのはエルロン。声に気が付き振り向くと、悪霊姿のエレインを見留める。
エルロン「ぎゃっ!」
エルロン、馬に鞭を入れる。
馬車は加速。
中にいたフラップ、居眠りしていたが荷物が倒れて、異変に気がつく。
フラップ「(窓から顔を出して)どうした? また悪霊でも出たのか?」
エルロン「上、上見ろ!」
フラップ、言われた方を見上げる。
悪霊が木々の間を縫うようにして馬車を付け狙う姿が見える。
フラップ「あ、あ、あ……!」
カメラ切り返しエレイン視点から、つづら折りの山道を走る馬車、エレインはショートカットして飛び降りる。
エレイン「とーう!」
カメラ切り返して馬車から。
フラップ「見失った!」
エルロン「どこに消えた?」
馬車の前にエレインが飛び出してきて、両手を広げて制止する。見た感じはエレインではなく、完全に紺色のローブをまとった悪霊。
エレイン「止まれーっ!」
急制動かけるエルロン。
エルロン+フラップ「ぎゃーっ!」
✕ ✕ ✕
時間経過。山道を走っている馬車。ボコボコにされた御者台のエルロンとフラップ。客席ににエレインが座ってる。
エレイン「あんたらが先に襲いかかって来たんだからね?」
エルロン「ういっす」
エレイン「まさか、私の顔忘れたわけじゃないよね?」
エルロン「ういっす」
あとはロングショットで。
エレイン(オフ)「ところでこの荷物は?」
エルロン(オフ)「タッカー城から……武器の調達……」
エレイン(オフ)「タッカー城から? 無許可で? 泥棒だ泥棒ー、騎士団が悪いことしちゃいーけないんだー」
エルロン(オフ)「ういっす」
106 マリーナル(異界)のエレインの家の外
テーブルで居眠りしているアリスロッテ。
チョウチョが飛んできてとまり、また飛んで行く。
107 フローレンス城、玄関ホール
荷物をホールへ運び込んでいるエルロンとフラップ。エレイン、マグレフの姿を見留め、歩み寄る。
T:「第五話:ヴァポラムの死闘」
エレイン「いよう」
マグレフ「なんで戻ってきたんだ、このバカ」
エレイン「戻ってやったんだ。まずは感謝したらどうだ。それよりもマグレフ、いよいよ決戦か?」
マグレフ「ああ、『俺は』そのつもりだ」
エレイン「俺は?」
マグレフ「ファデリーが動かん」
奥からアニエスが現れる。
アニエス「エルロン、フラップ、ファデリー閣下がお呼びだ」
フラップ「(小声でエルロンに)何やった?」
エルロン「(小声でフラップに)俺?」
エルロンとフラップ、アニエスのほうへ歩き、3人去る。
エレイン「あわただしいな」
マグレフ「お前がいなくなって、新しい歪が40箇所以上発生した」
エレイン「40箇所以上?」
マグレフ「ああ、それが全部異界の魔女、つまり、お前が作りだしたことになってる」
エレイン「異界の魔女? 私?」
マグレフ「いい通名(とおりな)だろう? ハインラインの連中が吹聴してやがる。そこに騎士団も噛んでることになってる」
エレイン「ハァ(ため息)……それでファデリーもピリピリしてる、と」
マグレフ「ああ、そうだ」
エレイン「ハインラインに好き勝手に噂を立てられて、何も出来ない、か」
マグレフ「大人の駆け引きってのがあるんだよ」
エレイン「フン、知らねえよ」
エレイン、奥へ歩き出す。
マグレフ「何をする気だ!?」
エレイン「私ならハインラインを壊滅させられる。ファデリーにかけあってくる」
マグレフ「待て、10秒待て」
エレイン、足を止める。
マグレフ「異界の魔女がお前のことだって知っているのは、俺とファデリーとアニエスくらいだ。アルミナとは、友達でいてやってくれ」
108 同、執務室
ファデリー、エルロン、フラップ、アルミナが話をしている。アニエスはファデリーの後ろに控えている。
エルロン「クルーゼンブルク城には、まだ使える井戸はひとつありますが、毒の沼はそのそばまで迫っています。姫を戻せるような場所ではありません」
アルミナ「私なら別にどこでも……」
フラップ「それに、墓地からの瘴気で、多くの使用人が体を壊してます。それよりもダルディスク伯の城の方が……」
ファデリー「伯父からは、しばらく我が騎士団とは交渉しないと使いが来た」
アルミナ「そうでしたの……?」
SE:ノックの音
ファデリー「アニエス、追い払え」
アニエス「ハッ」
アニエス、ドアの方へ行くが、そのままマグレフとエレインに押し戻されてくる。
アニエス「(ファデリーの方を見て)今追い払っているところです。少々お待ち下さい」
ファデリー「(かぶせ気味に)もういい」
109 世界の果ての洞窟
世界の果ての洞窟。奥の祭壇の前で、護摩を焚いているカッパ。
マリウス(N)「その頃、カッパは世界の果てで、ファデリーとその仲間たちがカッパに見える呪いをかけていました」
カッパ、振り返って目が光る。
110 フローレンス城 執務室
ファデリー、マグレフ、アルミナ、エルロン、フラップ、アニエスがそれぞれセミシルエットで描かれる。苛立った表情のエレイン。
フラップ(カッパ)「ヴァポラムに2000の兵が集められてる。やつら、マリーナルに侵攻する気だ」
アニエス(カッパ)「ああ、歪みもおそらくあいつらの仕業だ。だけど証拠がない」
エレイン「証拠なら、私が直接聞いた!」
フラップ(カッパ)「それは証拠にならないよ」
マグレフ(カッパ)「人質も結局は口を割ってはいないんだ」
エレイン「歪みを作ってんのは事実なんだろう?」
エルロン(カッパ)「歪だけじゃないよ。やつらはもう次の段階に入ってる」
エレイン「裂け目を作ってるってこと?」
マグレフ(カッパ)「ヴァポラムには数十の空間の歪みがあるらしい。それを次々と広げてるって話だ」
ファデリー(カッパ)「話すだけ無駄だ。歪みはすべて異界の魔女が作った。少なくとも世間はそう思っている」
マグレフ(カッパ)「うかつに動けばまたなんとか伯みたいに支援者が離れる、か?」
アニエス(カッパ)「大切なことです。支援者がいれば、姫が熱を出したまま引きずり回されることもなかった」
エレイン(M)「畜生、どいつもこいつもカッパに見えやがる」
ファデリー(カッパ)「いずれにしても騎士団は動かん。ハインラインは、ヴァポラムで俺たちと同じ失敗をおかす。それを待つ」
エレイン「同じ失敗?」
マグレフ(カッパ)「裂け目をいじくって、タッカーとフォルエイ、2つの国を滅ぼした」
ファデリー(カッパ)「ああ、その失敗をやつらにも味わってもらう。そうすれば、ハインラインについている同盟の半数は外れる。仕掛けるのはそれからでいい。以上が作戦だ」
みな黙りこくる。
マリウス(N)「こうしてみんな、カッパの呪いにかかる中、一人だけその呪いを受けない者がいました」
みんなカッパに見える中、アルミナだけアルミナ本来の姿に見える。
アルミナ「(涙を流しながら)人々が苦しむのを待つだけで、何もしないのが作戦でしょうか?」
エレイン「アルミナ……」
アルミナ「自分の気持ちを殺して、それで手にした正義で、本当に人を導けるんでしょうか?」
黙りこむカッパたち。
エレイン「(立ち上がり)ああ、そのとおりだ! こっちの数が5万だったら打って出るんだろう? てことは負けてんだよ! 負けを認められずに屁理屈並べてるだけなんだよ!」
111 同、執務室前廊下
カウチに座ってるアルミナとエレイン。
アルミナ「つまみ出されちゃいましたね」
エレイン「ああ。それにしても……2000か……」
アルミナ、熱にうだされ、エレインにもたれかかる。
エレイン、アルミナの様子に気がつく。
エレイン「アルミナ! (アルミナの肩を抱き留めて)誰かっ! アルミナ姫が!」
112 同、アルミナ部屋前廊下
廊下で立ち話をするエレインとマグレフ。
マグレフ「このところ体調は悪くなる一方だったからな。医者も原因はわからんと言ってる」
扉ががちゃりと開く。カッパの医者が出てくる。
医者(カッパ)「(エレインに)原因はわからん」
カッパ去っていく。
マグレフ「それから、騎士団の判断は変わらんそうだ」
エレイン「糞どもが! お前はどうだ、マグレフ」
マグレフ「騎士団の鎧を着る限り、俺もその一員だ」
エレイン「(怒り)わかった」
エレイン、去ろうとする。
マグレフ「エレイン! お前は部外者だ、もう立ち入らなくていい」
エレイン、足を止める。
マグレフ「あとは俺たちの問題だ。娘のもとに帰ってやれ」
エレイン「(振り向いて)私だって帰ってやりたいよ! でもここで帰ったら、私のほうが相棒失格だ! 助けてやれるのに……、私がお前たちを助けてやれるのに!」
エレイン、駆け出す。
マグレフ「エレイン!」
113 同、玄関ホール
タッカー城から持ち帰った箱に腰を下ろしているマグレフ。
アニエスがやってくる。
アニエス「マグレフ殿、お耳に入れておきたいことが」
マグレフ、顔を上げる。
アニエス「ヴァポラムとの間にある検問所が襲撃されました」
マグレフ「エレインか?」
アニエスは何も言わない。
マグレフ「ファデリーは?」
アニエス「騎士団は動いてはならぬ、と」
マグレフ、怒りに震えながら立ち上がり、武器の箱を蹴破る。
マグレフ「騎士団でなければいいんだな! 騎士団でなければ!」
乱雑に中を物色して、武者風の兜を取り出す。
114 ヴァポラム密林 空間の歪み
広大なヴァポラム密林。
空間の歪みができた場所がある。
歪みの近くにハインラインの大隊が駐留している。
クマのぬいぐるみ(グリアス)が空間の歪に向かって、シャドーボクシングするように威嚇している。
背後でアニエスが指揮棒で手のひらを打っている。
周囲でハインライン兵たちが眺めている。
ハインラインA「あれは何をしているんだ?」
ハインラインB「あれで空間の歪みが広がるらしい」
ハインラインC「ハインライン評議会奥院……恐ろしいバケモン揃いだとは聞いていたが」
ハインラインB「想像していたのと、ちょっと違うよなあ」
SE:遠くで爆発音
警戒するハインラインたち。
ハインラインA「何事だ?」
ベルカミーナ「(ふりむきもせず)あの女が来たのよ。この私に屈辱を与えるために! 行くぞ! 呪われし闇の落とし子よ!」
グリアス、ベルカミーナの方に振り返り、雄叫びを上げる。
グリアス「ぐおおおおおおおっ!」
雄叫びは大地を震撼させて、恐れおののくハインライン兵たち。
ハインラインABC「の、呪われし! 闇の落とし子ーっ!」
雄叫びを上げるグリアス。
グリアス「ぐおおおおおおおっ!」
震え上がるハインライン兵。
ハインラインABC「闇の落とし子ーっ!」
雄叫びを上げるグリアス。
グリアス「ぐおおおおおおおっ!」
115 同、空間の歪み ポイントA
空間の歪のひとつを警備する4人のハインライン。
横たわった樹の幹をまたいで、つかつかと歩いて近づいてくるエレイン。
ハインラインA「何者だ?」
エレイン「(振り向きもせず)あんたらを殺しに来たもんだ」
ハインラインB「殺しに来たぁ?」
上空から無数の火球が垂直に降り注ぐ。
それが終わるとハインラインの4人、煙を出して倒れる。
エレインは懐からフレア・シェルを取り出し、歪を消す。
エレイン「(消し終わって)おまえら、ちゃんと死んでるか?」
ハインラインA「(か弱く、手をあげて)生きてまーす」
上空から無数の火球が垂直に降り注ぐ。
ハインラインA「ぬわぁっ!」
光の剣3本がエレインめがけて飛んでくる。
エレイン、体を少しずらして2本を躱し、3本目を短剣で受けて落とす。
エレイン、樹々の間の一点を睨みつける。
116 マリーナル(異界)のエレインの家の外
テーブルで居眠りしていたアリスロッテ、突然起き上がり、まわりを見渡す。
アリスロッテ「お母さん……?」
髪にとまっていた蝶が飛んでいく。
117 フローレンス城 アルミナの部屋
眠っているアルミナ、そばについているアニエスと、二人のオルタネイト。
奥にはエルロン、フラップが座ってる。
アニエス「落ち着いたみたいだね。ジョルジョ、おまえは姫についていてやれ」
オルタネイトA「わかりました!」
アニエス「(髪をまとめながら)サルバドール、お前にはちょっとやっかいな頼みがある」
オルタネイトB「やっかいな頼み?」
アニエス、まとめた髪を短剣でばっさり切って、ざんばらのショートヘアになる。
✕ ✕ ✕
アニエスとオルタネイトBが部屋を出て行くのを見送るエルロンとフラップ。
フラップ「俺たち完全に空気扱いだよ」
エルロン「やっぱ、国帰ろうかなあ」
118 同、ファデリー執務室
ファデリーは机で書類を見ている。
アルミナの髪をヘルメットから垂らしたオルタネイトがファデリーの背後に控える。
オルタネイトはしらじらしく髪をいじっている。
ファデリー「ところでアニエス。今日は何でヘルメットをかぶっているんだ?」
オルタネイト「あの、それは、ものもらいが出来たので、見られたくないかなーと思いまして」
ファデリー「(書類を見ながら)へえ。それに今日は、ずいぶん声が低いな」
オルタネイト「(無理に高い声を出して)アルミナ姫の風邪が移ったのかしらー。おほほほほほー」
ファデリー「ああ、体には気をつけろよ」
オルタネイト「お気遣いいただき、あーりがとうございまーす」
ファデリー「ところで、オルタネイトがジョルジョ一人残して、全員いなくなってるんだが、お前の指示か?」
オルタネイト「オ、オルタネイトが全員?」
ファデリー「ああ、置いて行かれたヤツはあわれなもんだなあ」
オルタネイト「ぜ、全員ってのは、あの、ええっと」
ファデリー「そう、全員。俺も含む」
ファデリー、書類を置いて立ち上がる。
ファデリー「こうなったら、行くしかあるまい?」
オルタネイト「えっ?」
ファデリー「アルミナを頼んだぞ」
119 街道
街道の先へと向かうアニエス。その後ろに、ぞろぞろついてくるオルタネイト。
アニエス「なんでお前らまでついてくるんだーっ!」
オルタネイトA「隊長だけ危ない目にあわせるわけにはいきません!」
オルタネイトB「命令違反の責任もみんなでかぶりたい!」
アニエス「お前らが来たら、騎士団が動いてんのがバレるだろう?」
オルタネイトC「そ、そうか……」
オルタネイトD「わかった! みんな脱げ! 鎧を脱げ!」
オルタネイトE「やべっ、俺今日パンツ履いてない」
オルタネイトF「こうなったらみんなパンツも脱げーっ!」
アニエス「なんでそうなるー!」
120 フローレンス城 アルミナの部屋
アルミナはベッドで横になっている。その横にはオルタネイト(ジョルジョ)が控えている。
奥の椅子にエルロンとフラップが座っている。
エルロン「マグレフ様がいつも言ってた騎士らしさって何なんだろうな」
フラップ「わかんね。片手剣って苦手なんだよ、俺」
エルロン「俺も。なんで騎士になんか志願したんだろうな」
フラップ「まだ騎士じゃないしさ」
エルロン「永遠になれそうにないよ」
フラップ「でも、だからって国へも帰れないしさ。俺いっそ、異界に行きてえよ!」
エルロン「いいねえ、異界マリーナル! ピンクのカバが住むところ!」
フラップ「それな!」
アルミナの声が聞こえる。
アルミナ「いないんです、ピンクのカバなんて」
フラップ「姫!」
エルロン「全部聞かれてました!?」
恐縮して立ち上がるエルロンとフラップ、アルミナ、横になったまま続ける。
アルミナ「ピンクのカバなんか、本当はどこにもいなくって、でも自分が本当に行くべきところに行きついた時に、それが見えるんですって……」
フラップ「アルミナ姫……」
アルミナ「私ももちろん、そこに行きたい。でもそこに行く道は、私の心の中にしかない」
神妙な顔で聞くエルロン、フラップ。
121 ヴァポラムの空間の歪 ポイントB
鳥が一斉に飛び立つ。
SE:羽音
周囲を警戒する4人のハインライン、更に3人が現れ、加わる。
ハインラインA「騒がしいな……何が起きているんだ?」
ハインラインB「異界の魔女だ、裂け目を消しにきたらしい」
ハインラインC「裂け目を消しに?」
ハインラインA「ああ、逆位相の魔法を使うらしい。こちらの防御はすべて貫通する。姿が見えたら即攻撃するしかない」
更に6人のハインラインが合流する。
ハインラインB「おいおいおい、こんなに密集して大丈夫か?」
ハインラインD「ここで止めろと、奥院の司令官から指示が来た」
少し離れたところで、大木が1本倒れる。
振り返るハインラインたち。
ハインラインC「なんだ?」
靄の中に人影が見える。
ハインラインA「あれは?」
マグレフ、鬼神の鎧をつけてゆっくりと姿を表す。
マグレフ「異界の魔女が裂け目を消しに来る。事情は知ってるみてぇじゃねえか、虫けらども」
ハインラインB「誰だ!」
マグレフ「(歩きながら)操られるだけの木偶人形なら、見逃す気でいたが、知って歯向かうなら容赦はしねえ。それでも念のためだ。生き延びるチャンスを与えてやろう。生き延びてえやつぁ今すぐここから立ち去れい!」
マグレフ、剣を抜いて一回転。
近くの大木がゆっくりと倒れる。
マグレフ「(見栄を切りながら)死にてえやつだけ、かかって来い!」
一瞬戸惑うハインラインたち。
ハインラインA「やっちまえーっ!」
ハインラインは一斉にマグレフに襲いかかる。
M:千鳥合方
火球を放つハインライン。
マグレフはその火球を刀で受け、間合いに入って斬る。
斬ったハインラインを手前に引き倒し、その後ろにいるハインラインを斬る。
飛んでくる火球を体をかがめ躱し、斬撃波を飛ばして1人斬り、別の敵の懐に飛び込んで腹を突き、背後の敵に蹴り、剣を腹から抜いて振り返りざまに蹴った敵を叩き切り、飛んできた火球を左手で受け、握りつぶし、怯えて逃げ出そうとするハインラインが振り返るとそこに瞬時に回り込み、斬る。
ハインラインB「相手は剣士だ! 間合いを取れ! 密集するな!」
叫んでるハインラインに石が飛んできて、倒れる。となりのハインラインの元にマグレフ踏み込んで来る。応戦しようとする杖を切り落とし、切り返して斬る。そのハインラインを足で蹴り、後ろのハインラインに浴びせる。背後から来る火球の連弾を振り返り斬り落とす。
それを見て怯えている4人のハインライン、何者にやられたかもわからぬうちに崩れ落ちる。
一人のハインラインの視点から、ぐるっとまわりを見回すと、ハインラインが次々と、見えざる敵に斬られ、倒れていく。
空洞の丸太の中を腰を低くして逃げるハインライン、その前に閃光が走り、丸太ごと輪切りにされる。マグレフ、これを蹴る。輪切りの中にはハインラインが一人。転がる輪切りのあとを歩くマグレフ。それを遠目に見る総勢20のハインライン。ハインライン軍団は距離を取りマグレフを囲んで、杖を構えている。丸太の輪切りが倒れ、這い出そうとするハインラインに剣を突き立てるマグレフ。
取り囲んだハインラインによる魔法の一斉射撃。
マグレフ、連続する爆発の中に消える。
✕ ✕ ✕
マグレフが倒れたはずのところに20人のハインラインが集まってくる。
ハインラインF「討ち取ったか?」
ハインラインG「ああ、生きてはおるまい」
その20人の背後、後ろの沼からゆっくりとせり上がるマグレフの姿。
泥水が滴る。
下段にかまえた剣が不気味に光る。
122 マリーナル(異界)の聖なる泉
アリスロッテ、目を閉じて何かと交信している。光のきらめきが降り注いでいる。
アリスロッテ(M)「お母さん……どこにいるの……」
123 ヴァポラムの空間の歪、ポイントA
樹々の間を縫うように走るエレイン、それを追う光の剣7本、エレインの目の前に1本突き刺さる、2本目が来るがかわし、3本目を短剣でうけて躱し、続く剣の攻撃が来るのを見ながら、視界の端に見えたマリウスにノールックで3発の火球を浴びせる。
4本目、5本目叩き落とし、6、7本目体を捻ってかわす。火球をマリウスへ放つが、マリウスは軽くかわす。
地面から連続して剣が生えてきて、エレイン後ろ向きに飛び退きながらかわす。
ハインライン「いたぞーっ!」
エレイン、振り返り、ハインライン兵の姿を見留める。3人の姿が確認でき、その3箇所から火球が飛んで来る。
エレイン「チッ」
エレイン、火球を躱すと、次に上空からマリウスの剣が降り注ぐ。
エレイン、上を見ると剣に乗り宙を舞うマリウスの姿がある。
エレイン「フン、上と下からはさみうちかい」
マリウス、上空から連続して剣を浴びせる。更にエレインには水平の3方向から火球が迫る。
エレイン、それらを避けるが、2本を避けきれず傷を負う、倒れこんだところにハインラインからの火球が打ち込まれる。
マリウス、討ち取ったりの表情。
急降下してエレインにせまるマリウスの横を巨大な光の球が轟音を立てて通り過ぎて行き、マリウス、ギリギリでかわす。
マリス「なんだっ?」
マリウスの後方にとどまる光の玉、マリウス振り返ると、光の球が人の姿に変わる、光の姿は、ゆっくりと体を回転させて振り返る。アリスロッテの幻影が姿を表す。
124 マリーナル(異界)の聖なる泉
目を閉じているアリスロッテ。
アリスロッテ「あなたは誰?」
アリスロッテ、両手をふわっと広げる。
125 ヴァポラムの空間の歪、ポイントA
空中で剣に乗るマリウスと、浮遊するアリスロッテの幻影。
幻影はアリスロッテが取ったポーズと同じポーズを取る。
幻影のアリスロッテの周囲に8つの光の球が発生、光球は自由落下を始めたかと思うと、向きを変え、マリウスに向けて飛ぶ。
マリウス、これをひらひら避けて、光の剣を更に12本展開。
アリスロッテは両手のひらを上に向け、自分の周囲に6本のプリズム柱を発生させる。
マリウスの剣がアリスロッテに飛ぶが、アリスロッテの姿はプリズムを通して何体にも見え、すべて空を切る。
アリスロッテは手を広げて回転しながら上昇、螺旋の軌跡を描いて光の球を生成、プリズムを通して何重にも見え、それが不規則な軌跡を描き次々とマリウスを襲う。
マリウス、光の剣に乗り、次々とかわしつつ、光の剣をアリスロッテに飛ばす。剣はすべて空を切り、マリウスは襲い来る光球を、かわし切れず、そのうちの一発を胸に受ける。
が、光球はマリウスの体を通りぬける、同時にマリウスの光の剣もアリスロッテに命中するが、それも通り抜ける。
マリウス(M)「抜けた?」
✕ ✕ ✕
マリーナル(異界)の聖なる泉。
アリスロッテ「(笑みを浮かべ)私の勝ちだ……」
アリスロッテ、目を閉じたまま、下の方に視線を落とす。
アリスロッテ「(何か見留め)お母さん……?」
✕ ✕ ✕
戻って。
足元に3体のハインラインを踏みつけたエレイン、 アリスロッテとマリウスの空中戦を見ている。
アリスロッテの幻影はエレインの方を見ている。
エレイン「アリスロッテなのか……?」
アリスロッテの残りの光球がすべてマリウスに打ち込まれる。マリウスは呆然とそれを見ている。光球はすべてマリウスを通過していき、アリスロッテの幻影は消える。
✕ ✕ ✕
マリーナル(異界)の聖なる泉。
目を開くアリスロッテ。
アリスロッテ、その場にへたり込む。
✕ ✕ ✕
戻って。
マリウス(M)「あれはいったい……」
マリウス、よそ見してるところに、火球が飛んできて当たる。
マリウス「ぬわっ!」
エンジン故障したプロペラ機のような音をたてて落下するマリウス。
ヘリウムボイスの声「制御不能! 制御不能! 脱出します!」
マリウスの頭からパイロット射出され、落下傘が開いて降りてくる。
マリウス、落下点で爆発。
エレイン「ごめん、撃っちゃった」
エレインに向けて光の剣が何本も飛んで来る。エレイン、それをすべて寸躱しするが、気が付くと大木にピン止めされてる。
マリウス「とんだ邪魔がはいりましたが、これならどうですか?」
姿を表すマリウス。
エレイン「(ゆっくり、余裕をもって)ハイ、バック、ブラスター」
エレインの背後で大爆発が起きて、後ろの大木を消し去る。大木もエレインもいなくなり、光の剣が落ちる。
離れたところに立ってるエレイン。
エレイン「口が開きっぱなしだよ、ぼうや」
マリウス「(はっとして口を閉ざし)なるほどね、それなら……」
マグレフ(オフ)「お前の相手はこの俺だ、マリウス・クライス」
マリウス、振り返る。
マグレフ、剣を肩に担ぐように構えて立っている。
マリウス「あなたは?」
マグレフ「俺は異界の魔女の相棒、鬼神とでも呼んでもらおうか」
エレインも鬼神がマグレフだとは気づいていない。
マリウス「鬼神?」
エレイン「誰?」
鬼神、ちょっとコケる。
マリウス、光の剣を5本出してマグレフに飛ばす。マグレフは片手でそれをすべて払う。払われた剣は霧散する。
マリウス(M)「魔法剣が消えた?」
ゆっくりと歩いてくるマグレフ。
新たに12本の剣がマリウスの周囲に展開する。
マグレフ「いいのかい? マリウスさんよう」
マリウス、 眉をしかめる(言葉の意味がわからない)。
マグレフ「俺の間合いだ」
マグレフ、マリウスに斬りかかる。マリウスは大上段から振り下ろされる剣を、2本の光の剣で抑える、が力でへし折られ霧散、体を躱し、背後に飛び退く。
残り10本の剣がマグレフに襲いかかるが、マグレフは舞うようにすべて叩き落とす。
マグレフ、エレインに目配せする。
エレイン、小さくうなずいて、その場を離れる。
マグレフ「ソードマスター・マリウスたあ、ふざけた二つ名だ。だがお前の実力はそんなもんじゃねえ。どうせその二つ名も、隠し玉を悟られねえための目くらまし。てめえ、ハインライン評議会なんかに潜り込んで、何をたくらんでやがる?」
マリウス、立ち上がって埃を払う。
マリウス「やれやれ。なんのことやら僕にはさっぱりです」
マグレフ、剣を横一文字にかまえ、マリウスを見据える。
マグレフ「来な、坊や。戦い方ってのを教えてやるよ」
マリウスからはオーラが吹き出し、エネルギー流のようなものが立ち上る。
上空からマグレフに向けて巨大な魔法弾が次々と打ち込まれ、今まで見た中でも最大級の爆発が起きる。
126 同、空間の裂け目
空間の裂け目がある場所。
裂け目の中には禍々しい黒い渦が見える。
T:「最終話 ハッピーバースデイ、アリスロッテ」
グリアスは裂け目に対してシャドーボクシングを行い、ベルカミーナが見守り、更に外側にハインラインの兵が6名ほど控える。
地鳴りが響く。
ベルカミーナ「何事だ、いったい?」
数人のハインライン兵が息を切らしてたどり着く。
ハインライン「お、鬼っ! 鬼が現れました!」
ベルカミーナ「鬼だと?」
ハインライン「恐ろしい剣の使い手で、すでに100はやられました。逃亡するものも出ております!」
ベルカミーナ「愚か者どもが! 腕のたつ賞金稼ぎを雇っていると聞いたが? どこに行った!」
ハインライン「そちらも何者かに抑えられているようです」
ベルカミーナ「呪われし闇の申し子よ! その裂け目、しっかりと広げておくんだぞ! ここが片付いたらすぐにマリーナルを攻める!」
グリアス「ぐもおおおおおおおっ!」
ハインライン「(グリアスの雄叫びにかぶせ)士気が下がっております。これ以上の戦闘はもはや……」
ベルカミーナ「私が前線に出る! 兵を集めろ! 肉の壁どもを!」
127 フローレンス城 アルミナの部屋
アルミナの熱がひどくなり、呻いている。
オルタネイトA「大丈夫ですか? アルミナ姫!」
オルタネイトB「どうしたんだ? 熱は下がらないのか?」
オルタネイトA「ああ、さっきからどんどん上がっていく」
128 ヴァポラムの草っぱら(西エリア)
ヴァポラムの主戦場から少し離れた草っぱら、木々はまばらで丘に1本の木がある。ガルシアとファデリーが対峙している。ガルシアの服は1箇所切り裂かれてる。ガルシアは剣を構え、ファデリーは剣を抜いていない。
ガルシア「どうしても俺を通さねえ気か?」
ファデリー「ここが見せ場なもんでね」
ガルシア「フッ、てことは俺もそうなるんだな」
ファデリー「いや、お前、見せ場だらけだったろ」
ガルシア「あれは見せ場じゃねえ!」
ガルシア斬りかかる。スローモーションで、ガルシアはファデリーの手の動きを見ている。
ガルシア(M)「まだ抜いてねえ……」
ファデリー、体を1回転させ、頭を少し下げる。ガルシア、剣を持つ手をゆるめ少し長めに握り直し、斬り下ろす。が、ファデリーは体をかわす。ガルシア、前方1回転してフィニッシュ、すぐに振り返り、ファデリーを見るが、剣は抜いていない。ガルシアの服にはもう1本破れが増えてる。
ガルシア(M)「(破れたとこを指でたどりながら)いつ抜いたんだ?」
ファデリーは振り返る。
ファデリー「次はこちらから行くぞ」
ガルシア「ハッ! イヤなこった!」
ガルシア、後ろ向きに飛び退くが、着地点で空き缶を踏む。
ガルシア「ぬわっ!」
そのままよろめいて、こんどは鍬を踏んでしまうが、起き上がってくる鍬の柄をファデリーが剣で止める。
ファデリー「てめえ、またそんなネタで逃げようってのか?(怒り)」
ガルシア「別に逃げてるつもりなんかねぇ」
ガルシア、足元の鍬の柄を抑えたファデリーの剣を踏みつける。ファデリーの手から剣が離れ、ガルシアは斬りかかる。
ガルシア「俺の勝ちだーっ!」
ファデリー、別の剣で受ける。
ガルシア「てめえ! 何本持ってやがる!」
ファデリー「さあね」
両者飛びのいて離れる。剣を構えたガルシア、ファデリーは余裕こいてさっきの剣を拾おうとする。
ガルシア「させるかーっ!」
切りかかってくるガルシアをひょいと避けるファデリー、切り返して連打してくるガルシア、ファデリーは後退しつつかわす。
ファデリー、大木の後ろに回りこむ。(スローモーションで)木の後ろから、右へ左へ顔をだし、ガルシアもそれにあわせて、右へ左へとふられる(昔のアイドルイメージビデオ的な)。光がキラキラしてる。
ガルシア「待てー!」
(スローモーションで)木の周りを回って追いかけあって、笑いながら逃げるファデリー、同、追うガルシア。
SE:エコーの効いた笑い声
129 同、ポイントC
ハインライン側の一時拠点。監視用の足場が組まれ、そこにベルカミーナと参謀役のハインラインが陣取る。
周囲を警戒するハインラインたち。
別のハインラインが報告に来る。
ハインラインA「た、たいへんです! 全裸のむくつけき男たちがこちらへ向かってきます!」
ベルカミーナ「なんだとう!」
ベルカミーナ、期待した顔で望遠鏡を受け取って、のぞく。
ベルカミーナの期待の顔が、絶望の顔に変わる。
ベルカミーナ「(望遠鏡を叩き返し)あれはただのたるんだ小汚い変質者のおっちゃんの群れだ! 情報は正確に伝えろ!」
ハインラインB「来る! 応戦するぞ!」
ベルカミーナ、ふと何か思い出す。
ベルカミーナ「待て! 奥院ではいま、被服を媒介して爆発的に増殖する殺人ウイルスを開発中だ。ヤツら、先にそれを完成させた可能性が……」
ハインラインC「被服を媒介……だからヤツらは裸で……」
ベルカミーナ、何か思いつく。
ベルカミーナ「そうだ! お前たちも全裸で応戦しろ!」
ハインラインB「おお! なるほど! その手がありましたか!」
ハインラインC「みんな脱げーっ! 脱いだら特攻だーっ!」
ハインラインA「おーっ!」
ベルカミーナ「気を付けろよお前たち! 葉っぱとか、スパっと行くからな、スパっと」
130 世界の果ての洞窟
世界の果ての洞窟。奥の祭壇の前で、護摩を焚いているカッパ。
マリウス(N)「その頃、カッパは世界の果てで、全裸の男たちがカッパに見える呪いをかけていました」
カッパ、振り返って目が光る。
131 ヴァポラムの空間の歪 ポイントCのアニエス側
指揮を取るアニエスにオルタネイト(カッパ)が報告する。
オルタネイト(カッパ)「敵も全裸で応戦してきましたーっ!」
アニエス「なぜだーっ!」
敵(ハインライン)が大挙して押し寄せ、こちら(オルタネイト)からも多数の軍勢が出るが、アニエスの後ろ姿を除いてすべてカッパに見える。
アニエス「しかもどう見てもカッパーっ!」
オルタネイト(カッパ)「きゅうりをぶちこんでやれーっ!」
132 同、ポイントC
カッパの群れが戦っている姿を見ているベルカミーナ。参謀役のカッパに尋ねる。
ベルカミーナ「これでは戦況がわからん! 鉄騎隊で一気にケリをつけろ!」
ハインライン(カッパ)「ハッ! そろそろ到着する頃かと」
ベルカミーナ「あとは賞金稼ぎだ! 大金をつぎ込んでいると聞いたが、何をしてるんだ?」
ハインライン(カッパ)「西エリアで死闘を繰り広げているとのことです!」
133 同、草っぱら(西エリア)
大木を挟んで息を切らして座る、ファデリーとガルシア。
ファデリー「ハインラインにはいくらで雇われてる?」
ガルシア「大した額じゃねえが、あんたらに靡くわけにはいかねえな」
ファデリー「人質を取られてるのか?」
ガルシア「それを喋るわけにもいかねえ」
ファデリー「北の大国を攻める予定がある。そちらに参加する気はないか? なんならおまえの体があくのを待ってもいい」
ガルシア「ヴァラー騎士団と言えば、かつての名門。そいつが俺を買ってくれるたあ、ありがてえ話だが、遠慮させてもらうぜ」
134 同、ポイントCのアニエス側
指揮を取るアニエスにオルタネイト(カッパ)が報告する。
オルタネイトA(カッパ)「敵の増援です! 大型の火器4門を備えた精巧な機工鎧で武装した巨大なる騎士!」
✕ ✕ ✕
世界の果ての洞窟。カッパが振り向いて目がキラーン。
✕ ✕ ✕
戻って、
巨大なカッパが変顔して安来節を踊っている。
アニエス「カッパの安来節に見える……」
オルタネイトA(カッパ)「またもや増援です! 奥院の秘密兵器、八本の腕と3つの顔を持つ怪人、それぞれの手に違う武器を持っています!」
アニエス「なんだと?」
オルタネイトB(カッパ)「西からは、インコの頭に象の鼻、口に地獄の邪気をくわえた異形の神が現れました!」
アニエス「あ、それ見たい」
オルタネイトC(カッパ)「じゃあ、尻がアフロでアコヤ貝に頭挟まれた校長先生!」
アニエス「今、『じゃあ』って言ったよね? 『じゃあ』って?」
✕ ✕ ✕
世界の果ての洞窟。カッパが振り向いて目がキラーン。
✕ ✕ ✕
戻って、
変顔して安来節を踊るカッパが4匹に増えている。
アニエス「これどれが何なの? アコヤ貝に頭挟まれた校長先生もまじってんの?」
135 同、ポイントCのベルカミーナ側
壇上から戦っているカッパたちを見ているベルカミーナと参謀役。
ベルカミーナ「戦況がわからん!」
ハインライン(カッパ)「恐るべし! カッパの呪い!」
ベルカミーナ、参謀役のカッパを壇上から蹴落とす。
ベルカミーナ「もういい! 私がケリをつける!」
ベルカミーナ、詠唱を始める。
ベルカミーナ「蒼き海の底に眠りし古き支配者、星の光を喰らう意思なき恐怖の探求者、ニャルラ・クトゥル・モズルよ! 今ここに目覚め、この地に創世の混沌をもたらすがよい!」
ベルカミーナが立っているところがもりもりと盛り上がっていく。
ベルカミーナ「さあ! 恐れるが良い! とくとその眼に焼き付けるが良い!」
✕ ✕ ✕
世界の果ての洞窟。カッパが振り向いて目がキラーン。
136 同、ポイントCのアニエス側
巨大なカッパのシャワーシーンが現れる。
オルタネイトA(カッパ)「カッパのサービスショット来たーっ!」
アニエス「本当はなんなの、これ! ねえ、本当はなんなの!」
137 同、沢
一面にカッパの死体が転がっている。
傷だらけになったマグレフがよたよたと歩いてきて、よろめいて膝をつく。
仮面をとって、血を吐くマグレフ、累々と並ぶカッパの死体に目が行く。
マグレフの背中なめ、おびただしい数のカッパの死体。スーパーインポーズ。
T:「戦況がわからない」
マグレフの背中なめ、クロスカウンターを打ち合って壮絶に死んだようなカッパ2匹。スーパーインポーズ。
T:「素直に悲しめない」
マグレフの背中なめ、弱々しい眼をしたカッパ。マグレフ、きゅうりをかざして見せて、左右に動かす。カッパはヨダレを垂らしてきゅうりを目で追い、奪おうとするがその手は空を切る。スーパーインポーズ。
T:「心までカッパ」
カッパ、息絶える。
立ち上がり、累々と並ぶカッパの死体を眺めるマグレフの背中。
マグレフ「いったいなぜ……、なぜこんなことに……、誰か……、誰か生きているものはおらんのかーっ!」
結構な数のカッパが手を上げる。
T:「あんがい平和」
✕ ✕ ✕
カッパの死体の群れの中から、エレインが起き上がる。エレインはマグレフを見留める。
エレイン「マグレフ?」
マグレフ「(エレインに気が付き)エレイン……。(指差し)向こうに空間の裂け目がある。妙なクマのきぐるみが広げている」
エレイン「わかった」
マグレフは崩れるように座り込み、そのまま横になる。
マグレフ「俺は……ここで少し……横になる……」
エレイン、はっとする。
エレイン「マグレフ!」
エレイン、マグレフに駆け寄ろうとするが、足を止める。
エレイン「(悲しみをこらえ)さらばだ、相棒」
138 同、空間の裂け目
グリアス(闇の申し子)が裂け目を広げようとしている。その周囲には5人ほどのハインラインが警備している。
ハインラインA「静かになったな」
ハインラインB「奥院のなんとかって人が、異界の魔女を追っ払ったのかな?」
裂け目の方から、どごーんと衝撃波。
ハインライン、衝撃をこらえて裂け目を見ると、裂け目は怪しい感じで広がって、うねうね動いている。
ハインラインA「なんだこれは!?」
裂け目の奥から、うごめく影のような怪物の姿が見える。長い触手を伸ばし、ハインラインCをつかみ、引きずり込む。
ハインラインC「た、たすけてぇーっ」
グリアス、その様子に恐れをなす。
エレイン現れ、裂け目の異変を目にする。
エレイン「何だこれは?」
エレイン、裂け目から黒い影が足を出し、這い出そうとしているのを見る。
エレイン「させるかっ!」
エレイン、裂け目の前まで来てフレア・シェルをかざす。
フレア・シェルに裂け目から力が流れ込む。激震が襲う。裂け目は衰退せず、どんどん不安定になっていく。
エレイン「どうしたんだっ! 裂け目が落ち着かない!」
背後からエレインに忍び寄るベルカミーナ。
ベルカミーナ、エレインの背後に付き、裂け目の方に押し込もうとする。
エレイン「お前は!」
ベルカミーナ「裂け目を消すつもり? そうはさせないわ。消えるのはあなたよ! あなたがこの世界から消えるのよ!」
✕ ✕ ✕
遠くからその様子を見つけるエルロンとフラップ。
エルロン「やめろっ!」
エルロンとフラップ、飛び出そうとするところ、目の前にグリアスが立ちふさがる。
グリアス「ぐまぁぁぁぁぁぁっ!」
エルロンとフラップはグリアスに両手でラリアットを食らい、倒される。
フラップ「なんだこいつは……?」
エルロン「(口の中の血を吐いて)叩きのめしてやる」
エルロン、起き上がり、ハンマーを取り出し、右手でくるくるっと回して構える。
フラップ「ハンマーか。ヴァラー騎士団らしくねえ」
フラップ、弓を取り出す。
エルロン「お前もな」
エルロン、ハンマーの回転を利用して近づいて、グリアスの足を打つ。グリアスが膝をついたところで、グリアスの顔を左右から殴打。5発目を手で受けられ、ハンマーごと放り投げられる。
フラップ「(弓を構えながら)なにもんだ、あいつ?」
グリアス、倒れたエルロンにせまる。
グリアスの背中に矢が3本連続して刺さる。
振り返るグリアス、フラップの姿を見留める。
エルロン「フラップ! 俺はいい! エレインを!」
フラップ、エレインを見る。エレインはベルカミーナにぐいぐい押されてる。
フラップ、弓を引き絞りベルカミーナを撃つ。エレインの肩に矢が刺さる。
フラップ、はっとする。
エレイン「あのバカ……」
フラップ、目を凝らすと、ベルカミーナの近くがプリズムのようになっているのがわかる。
フラップ「しまった、プリズムウォールか……」
139 フローレンス城 アルミナの部屋
アルミナの熱がひどくなり、呻いている。祈ってるオルタネイトA(ジョルジョ)。
オルタネイトA「お前も祈れ! サルバドール!」
オルタネイトB「祈るって、何に?」
オルタネイトA「何って……、天界に住んでるエロールにだよ!」
140 ヴァポラムの空間の裂け目
エルロン、グリアスより左右からビンタ食らいながら、追い詰められる。
エルロン、倒れる。
グリアスの背に3本の矢が刺さる。
グリアス、背後のフラップを確認。
グリアスは倒れたエルロンをつかんで、フラップのほうにぶん投げる。
クシャクシャになって倒れるエルロン、フラップ。
エルロン、フラップに駆け寄るグリアス。
アニエスが現れ、スライディングしてきてグリアスの足をナイフで切る。
グリアス、バランスを崩し倒れる。
アニエス、してやったりの表情。
が、アニエス、グリアスが自分の足を掴んでいることに気がつく。
アニエス「やばっ!」
顔をあげ、ニヤリとするグリアス。
フラップ「逃げ……ろ……」
エルロン「アニエス……」
グリアス、立ち上がり両手でアニエスの足を掴んで引き裂こうとする。
✕ ✕ ✕
一方、ベルカミーナVSエレイン。
エレイン、体の半分くらい裂け目の中に押し込まれている。
ベルカミーナ「怖いの? この向こうは、ピンクのカバが住むところ、異界マリーナル、あなたのふるさとでしょう?」
エレイン「(苦しみながら)違う……お前たちは……違う扉を開いた……」
ベルカミーナ「違う扉?」
ベルカミーナ、空間の裂け目の穴を覗き込む。中は深淵の闇に様々な怨霊が渦巻いている。
エレイン、ベルカミーナの肩越しに何かを見留める。
エレイン「さすがは鬼神だな……。生きていやがったか」
ベルカミーナ、その声を聞いて、振り返る。
凄まじいオーラを噴き上げたマグレフの姿がある。
マグレフは片手でグリアスの首を掴んで掲げている。
マグレフ、グリアスを投げ捨てる。
ベルカミーナ(M)「あの子が、やられた?」
マグレフ「二人とも、そこを離れろ、この森はもうダメだ。タッカー城の惨劇と同じ事が起きる」
ベルカミーナ、裂け目とマグレフを交互にながめる。
ベルカミーナ「まさか……」
ベルカミーナ、よたよたとその場から逃げ出す。
エレイン、マグレフに手を挙げてみせて、裂け目にフレア・シェルをかざす。
マグレフ「いかん! もうよすんだ!」
裂け目は安定を失い、衝撃波を放ち、エレイン以外全員吹き飛ばされる。
エレインはフレア・シェルから発生したオーラに包まれている。
エレイン「もともと私が、こっちとマリーナルを行ったり来たりしたせいで出来た穴だ」
エレイン、フレア・シェルに意識を集中させる。フレア・シェルは輝きを増す。フレア・シェルの中から、女の子の笑い声が聞こえてくる。
SE:女の子の笑い声
エレイン(M)「笑い声……? そうか……この石、人間だったのか……」
マグレフ「やめろ、エレイン! その石に波長を合わせてはいかん!」
エレイン「(フレア・シェルに)誰かしらんが……、力を貸してくれ、頼む」
フレア・シェルがエレインの胸の前に浮き上がる。
フレア・シェルからエレインに光が注がれる。
エレインの尾てい骨のチャクラから、エネルギーの渦が生まれる。
エレイン「これは?」
フレア・シェル「尾てい骨に宿る、あなたのエネルギー」
エレイン「すごい……こんな力が……」
フレア・シェル「時空の狭間から流れ出る力を、あなた自身の命で、巻き取って、結晶化させる……」
エレイン「そんなことが……」
フレア・シェル「いい?」
エレイン「ああ、やってくれ」
フレア・シェルと、エレインのチャクラの渦が同期して回り出す。
エレインの周囲にエネルギーの渦が生まれる。
渦が裂け目の力をどんどん巻き取る。
裂け目の中にいた蠢く影も引き出されて、渦の中に消える。
少し離れたところにアニエス、エルロン、フラップの姿も見える。
アニエス「な、何が起きてるの?」
裂け目が少しずつ狭まってくる。
エレインは足元から石に変わっていく。
マグレフ、宙に浮かんだフレア・シェルを見留める。
マグレフ「その石を叩き落とせ! エレイン! お前自身が石に引きずり込まれる!」
エレイン「(マグレフを見て、微笑む)うっせえおっさんだ」
マグレフ、裂け目からの圧力に逆らい、エレインのほうへ歩く。舞っている瓦礫がぶつかり鬼神のマスクが飛ぶ。
マグレフ「エレイン! お前が犠牲になる問題じゃない! やめるんだ!」
マグレフ、必死の形相ですがる。エレインの体はどんどん石になっていく。
エレイン「来るんじゃねえ、マグレフ! てめえの相棒の門出だ! 笑顔で見送れ!」
マグレフ、圧に押されよろめき、剣を地面に突き立て、エレインにせまる。
マグレフ「行くなエレイン! 東に俺が生まれた村がある! 俺は、敷居をまたぐことはできんが、お前とアリスロッテなら、そこに住まわせてやれる! 行くな!」
マグレフ、言いながらエレインににじり寄り、フレア・シェルに手を伸ばす。
エレイン「その手を引け、マグレフ。この石は……、この石は私の命だ。これを取れば、お前が私を殺すことになる」
マグレフ、フレア・シェルを取ろうとする手をこらえる。
アニエス「(渦をこらえながら)マグレフ殿……」
エレイン「アルミナを、ファデリーを守ってやれ。ヘッポコ二人ももっと鍛えろ。それがお前の、使命だ」
フレア・シェルに伸ばしたマグレフの手が震える。
マグレフ「妻に続いて、お前まで……、俺は……、俺はっ!」
エレイン「乗り越えるさ、お前なら。あばよ」
エレインを包む結晶が急速に成長していく。
アニエス「いやーっ! 誰かなんとかしてーっ!」
結晶が成長しきるとともに大きな衝撃波。全員吹き飛ばされる。
141 フローレンス城 アルミナの部屋
ぱっと眼を見開くアルミナ。
オルタネイトA「おっ?」
オルタネイトB「祈りが通じた?」
アルミナ「(宙空を見つめたまま)大丈夫、あの人を、光の宮殿へ送ります」
オルタネイトA「へ?」
アルミナ「(オルタネイトの方を見て)二人のうち、どちらか……いつか迎えに行ってあげてください……」
オルタネイトB「へ?」
そのまますーっと気を失うアルミナ。
オルタネイトB「アルミナ姫!」
オルタネイトA「姫!」
142 ヴァポラムの空間の裂け目
エレインは完全に石になってる。
フレア・シェルはその石の近くに浮いている。
そこにあった空間の裂け目は見当たらず、光の粒が舞っている。
石になったエレインが光の粒をすべて吸い取ると、フレア・シェルは転がり落ちる。
マグレフ「うおおおおおおおおおおっ!」
絶叫するマグレフを眺めるアニエス。
アニエス「マグレフ殿……」
マグレフ「うおおおおおおおおおおっ!」
近くの大木に頭を打ち付けるマグレフ。
マグレフ「うおおおおおおおおおおっ!」
エルロンとフラップ、マグレフに後ろからしがみついて押しとどめる。
エレインが結晶化した石に、光が差し込み、光の天使が舞い降りる。天使は石の中から、気を失ったエレインの手を取って空へと連れて行く。それをぼんやりと見ているアニエス。
アニエス(M)「エレイン……?」
天に召されていくエレイン。
光満ちた空を見上げるアニエス。
アニエス(M)「さようなら、エレイン……」
マリウス(N)「この戦いの末、暗黒騎士団オルタネイトは更に評判を落とし、このあと2年に渡り表舞台から姿を消すことになる。アルミナ姫の熱は、世界の危機が消え去るとともに下がり、鬼神・マグレフの教えを受けるまでに回復するが、彼女自身はこの戦いの前後に起きたことをあまり覚えてはいなかった。なおこの戦いで、両軍ともに一人の死者も出なかったのは、カッパの呪いのせいだとも、エロールの女王のはからいだとも言われているが、詳しいことはわかっていない。そして、マリーナルに一人残されたアリスロッテがこの事件のいきさつを知るのは2年以上先、この戦いに参戦した者達の状況も様々に変わったあとの話となる」
143 マリーナル(異界)のエレインの家
テーブルにチーズが置いてある。チーズにはろうそくが15本立てられてる。アリスロッテが椅子に座って、まわりには白ヤギ黒ヤギ、イケメンヤギ2頭、子ヤギ8頭がいる。
アリスロッテ「お母さん、私、15歳になったよ」
拍手するヤギたち。
アリスロッテ「フレア・シェルがあったら、お母さんを探しに行けるのに……」
アリスロッテ、ポロポロと泣き出す。
悲しくなるヤギたち。
144 村の酒場兼宿屋
酒場で話してる客(カッパ)、その話を聞いてるコートとおじいちゃん。
客1(カッパ)「それで、その異界の魔女ってのが、鬼神に託したものがあるらしいんだ」
客2(カッパ)「鬼神に託したもの? なんだいそりゃ?」
客1(カッパ)「空間の歪を広げる恐ろしい石さ。なんでも異界から魔女の娘を呼びだして、もうひと暴れする気でいるんだと!」
客2(カッパ)「はあー、さすがは魔女、執念が違うなあ」
客1(カッパ)「ああ、だけどその鬼神ってヤツも、凄腕の賞金稼ぎに囚えられたらしい。まあ、一安心ってとこだな!」
コート「(テーブルに小鉢と酒を起き)モロキュウと黄桜、置いときますね」
客1+2(カッパ)「おう! ありがとう!」
おじいちゃんはその話を黙って聞いてる。
145 マリーナル(異界)のエレインの家
前の同じ場所のカットの続き。
15歳の誕生日のケーキに見立てたチーズを前にポロポロ泣いてるアリスロッテ。
窓の外が激しく光る。
アリスロッテが窓をあけると、おじいちゃんが倒れていて、その手にはフレア・シェルが握られている。
アリスロッテ「おじいちゃん……?」
マリウス(N)「事件から2年後、アリスロッテはおじいちゃんからフレア・シェルを受け取った。おじいちゃんはそのシェルの由来を語ることはなく、アリスロッテもそれを訊ねることはなかった。
それから間もなくして、アリスロッテはヤギたちを山に帰して、フレア・シェルを用いてソルサリアを訪れた。ガルシアやマリウス、マグレフたちと出会い、消えてしまった母の行方を探し、ヴァポラム、フリオリ、クルーゼンブルク城と、母の足跡を辿ったが、その姿を見つけることはできなかった」。
146 エロールの世界 光の宮殿
光にあふれた世界で眼をさますエレイン。眩しくてまわりがよく見えない。
エレイン「ここは……(飛び起きて)天国?」
まわりから笑い声が聞こえる。
エロール(声)「ここはダルシーネイア。エロールの住む世界」
エレイン「(光に目を細めつつ)エロール……? てことは……やっぱ天国かー。ガラじゃねえのにな、そういうの」
エレインの目が光に慣れてくる。
まわりには白く透き通った天使のようなカッパが舞っている。
エレイン「カッパか……ハッ……」
✕ ✕ ✕
時間経過ののち、エレインの前に光の船が舞い降りる。光の船から男が降りてくる。男は すぐにエレインに気がつく。
男(ジョルジョ)(30)「おりょ? エレイン殿? いったいなぜここに?」
エレイン「なぜここに……って? あんたは誰なんだよ」
男「あ、そうか、ずっとヘルメットかぶってたからなあ。オルタネイトっすよ。名前は……、まあ、名前はいいか。お嬢にも雑魚1って呼ばれたりしてたし」
エレイン「お嬢?」
男「ああ、アニエス嬢のことでやんす。あれからいろいろあったんすよ、エレイン殿が石になってから」
エレイン「あれから? いろいろ?」
✕ ✕ ✕
時間経過。
エレイン「2年半も経ってるの? こっち1週間しか経ってないのに!」
男「ああ、時間の流れの速さが違うんすかねえ。ああ、そうそう、アリスロッテって子にも会いやしたよ」
エレインの表情がほころぶ。
エレイン「アリスロッテに……?」
男「めちゃくちゃたくましくなってますよ。あの頃のエレイン殿を超えてんじゃないですかね?」
エレイン「(涙ぐんで)アリスロッテ……。良かった……」
✕ ✕ ✕
座り込んでカード遊びに興じる二人。
エレイン「ウノ!」
場に積み上がったカードの上に、カードがたたきつけられる。
エレイン「はいまたあたしの勝ちー!」
後ろに倒れこむエレイン、前にがっくりうなだれる男。
男「ふああ、こっちの世界はたいくつでやんすねえ」
エレイン「しょうがねえよ、死んじまったんだから」
男「ハァ……(ため息)、そろそろ帰ろうかな……」
エレイン、ガバッと起き上がる。
エレイン「帰れるの?」
147 おじいちゃんの村、新しい家の前
アリスロッテ(16歳)が目隠しされて、おじいちゃんに手を引かれてくる。おじいちゃんの隣にはカッパ。
アリスロッテ「私ね、こっちに来る前は、村の人がカッパに見えてたんだ。こっちに来てからも、マリウスも、鬼神も、アルミナ姫も、みんな敵だと思ってた」
目の前にはアリスロッテがマリーナルで暮らしていた時と同じ家が立ってる。
おじいちゃん「もういいよー」
アリスロッテは目隠しを取り、目の前の家を見て驚く。
アリスロッテ「この家は!」
おじいちゃん「マリーナルにあった家と同じのを作ったんだよー。ほっほっほ」
アリスロッテは、走って家の中に入る。
✕ ✕ ✕
家の中、アリスロッテ、納戸を開ける、柱を触る、自分のベッドに飛び込む。
アリスロッテ「おんなじだーっ!」
おじいちゃん「わし、物覚えいいから」
アリスロッテ「おじいちゃんの記憶から再現したの?」
ぞろぞろと部屋に入ってくるヤギたち。成長し、数も増えてる。
アリスロッテ「(気づいて)はあーっ!(感動) あなたたちも来たんだ!」
アリスロッテ、柱を見て、何かに気がつく。
✕ ✕ ✕
エレイン宅の同場所、回想。
柱の絵を指差すアリスロッテ。
アリスロッテ「この女の人は誰?」
エレイン「お姫様。この城の」
アリスロッテ「お姫様!」
✕ ✕ ✕
戻って
アリスロッテ「 (柱を示しながら)本当はここに、絵があったんだ。お母さんと、あと一人、私が知らない人が座ってる絵」
アリスロッテの脳裏に、母親と暮らした日のことがフラッシュバックする。
・絵に描かれた自分を指差すエレイン。
・おじいちゃんが来た日。
・ヤギのお腹をさすった日。
・エレインにボコボコにやられて泣いた日。
・雨漏りの水をバケツに受けた日。
・サンドイッチを食べた日。
アリスロッテ、ポロポロと涙をこぼす。
窓の外に激しい光が降りてくる。
部屋全体が真っ白く照らされる。
アリスロッテ、手を上げて目を覆う。
アリスロッテ「何?」
148 同、家の外
玄関から出てくるアリスロッテ。
家の前には光の船がある。
光の船から降りてくるエレイン。
エレインはまわりを見渡し、自分の手を見て、大きく息を吸い、アリスロッテの姿を見つける。
アリスロッテ、エレインの姿を見て驚き、混乱し、ぽろぽろと泣き出す。
アリスロッテ「どうして?」
アリスロッテ、エレインに歩み寄りしがみつく。
エレイン、アリスロッテを抱きしめる。
家のまわりにはピンクのカバがいる。アリスロッテはエレインの手をとって、部屋の中に連れて行く。
マリウス(N)「こうして、新しい家で、新しい物語が幕をあけました」
149 同、家の中
部屋の中、納戸を指差すアリスロッテ、後ろで微笑むエレイン。
マリウス(N)「新しい物語は、こう始まります。『昔々、あるところに、魔法使いエレインと、その相棒、アリスロッテが住んでいました』」
後ろにいるエレインに振り向くアリスロッテ。
アリスロッテ「相棒?」
アリスロッテの視線の先にエレインがいる。
二人の間には窓が見え、カメラは二人の間を超えて窓へ、窓が開き、カーテンがはためき、カメラは外へ出る。
そこには無数のピンクのカバがいる。
T:タイトル「ピンクのカバが棲むところ」
M:エンディングテーマ曲
(終わり)